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朝から降り出した雪は、昼近くになると路面に薄い絨毯を敷き詰めたように積もっていた。
古い骨董店にはすき間風が忍び込み、店番をしていた老婆は足先を擦り合わせ、火鉢に手をかざした。
風がガタガタと戸を揺らし、表でカラスがカァ、とひと声鳴く。
それを合図に老婆は立ち上がり、曲がった腰で奥へと引っ込んだ。
「困ったものだ」
たいてい困っている若い店主が暖簾を潜り店に降りた。
「こう寒くっちゃかなわない」
半纏の袖に手を入れ、雪駄をひっかけ机の裏の火鉢まで来ると、着物の裾を気にもせず雪駄を脱ぎ、つま先をかざす。
その様を入り口の両脇を陣取る信楽の狸に似た置き物がギョロリとした目で見ていた。店主は彼らを無視し、もう片方のつま先も火にかざした。
「本当にここ?」
「ここだって。俺、見たもん」
店の外で子供の声がした。背の低い陰がガラス戸の向こうからこちらを覗き込んでいる。なにやら話し合っているようだが店主はそれも無視し、今度は火鉢の上で指先を擦り合わせた。
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