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「カズホくん、ここ大人のものしかないよ」
「リミちゃんはくまさんが帰ってこなくてもいいの?」
「……いやだ」
からからと音を立てて戸が開き、一陣の風とともに粉雪が舞い込む。たいていの客は建て付けの悪さに閉口し店の者を呼ぶが、少年には苦ではないようだ。とはいえ元々この店に来る客などほとんどいない。
先に足を踏みれた少年が狛狸よろしく戸口を見張る二体の眼光に気圧され足を止めた。少年の背後にはぴったりと少女が張り付いている。
「怖くない」
少年が言い聞かせるように呟き、店に入ってくる。突然歩き出したので少女は二三歩よろめき、立ち止まった彼のやや後ろに不安げに立った。
「ここは子供の来るところじゃないよ」
「俺たち用があるんだ」
少年は毅然としている。
「ここにリミちゃんのくまさんが売られてたんだ」
「くまさんはいないよ」
「カズホくんが……」
「俺、見たんだ」
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