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颯爽
街へ戻る最中、僕は彼女の事を思い返していた。
彼女は変なコスプレが趣味の只の痛い女の子だと思ってた。
本物のヒーローだとは考えもしなかった。
だいたいヒーロー活動をしている姿なんて見たことが無い。
あの力は何時何処で手に入れたのだろうか?
しかも力と言っても相手をただ眠らせるだけ。
空を飛べるわけでもなければ高速で走る訳でもない。
荒くれ者や暴漢とでも対峙しなければ全く役に立たない能力である。
いや、対峙したとしても力でねじ伏せられたら終わりだ。
「ふふふ~ん♪」
しかし彼女は何故だかすこぶる機嫌が良かった。
笑顔など見せたことも無いのに、さっきからずっと笑っている。
決めポーズが決まったのがそれほど嬉しかったのだろうか?
「今日から久志は下僕1号よ…」
そしてまた訳の分からない事を言い出した。
ここで少しでも否定的な言葉を口にしたら鬼の形相に一変してしまう。
僕は軽く彼女の言葉を聞き流す事にした。
「そうですか…下僕1号ですか…」
しかし下僕という発想はどこから来たのだろう?
彼女は下僕という言葉の意味をきちんと理解して言っているのだろうか?
しかもご丁寧に1号というナンバーまで授かった。
2号、3号はこれから作ろうとしてるに違いない。
「キャー!助けてー!」
そんな時、どこからか助けを求める声が聞こえた。
声の先は銀行で銀行強盗が人質を盾に立てこもっている。
ショットガンで武装した犯人は銃口を人質に向けて威嚇している。
彼女はいそいそと着ている服を脱ぎだした。
先程よりは慌てているようだが脱いだ衣服は丁寧に畳んでいる。
そして全てが脱ぎ終わりヒーローの姿が現れると、きちんと畳んだ衣服を僕に手渡した。
しかし彼女が出て行ったところで何ができるというのだろう。
犯人はショットガンを持っていて遠距離からでも攻撃できる。
彼女のパンチが当たらなければ犯人は眠らない。
しかし彼女は余裕の表情を見せていた。
涼しげな眼差しでうっすらと微笑んでいる。
風格漂うその姿はとても凛としていた。
「私が来たからにはもう大丈夫よ!」
躊躇いなく銀行に向かって歩く、変な格好の女の子を大勢の野次馬達が怪訝な顔で見つめる。
自分達の前で起こっている不可思議な行動に頭が付いていかないのかも知れない。
何してんだろう?といった顔でポカーンと眺めている。
彼女は何事も無かった様に銀行に入って行った。
「何だ、お前は!」
中から犯人と思われる男の叫び声がこだました。
それと同時にショットガンの銃声も辺りに鳴響く。
人質たちの「キャー!」っという悲鳴までこだまする。
それを聴いて銀行を取り囲んでいた野次馬達は慌てて後ずさりした。
まだ警察すら到着しておらず、その場を統率するものは誰もいなかった。
もう一発の銃声が響くと共に野次馬もパニックになり周囲は修羅場と化す。
「わぁーー----ー------------」
そんな時、銀行の中から歓声が響いた。
安堵と歓喜が混じったその歓声は中で何が起こったかを容易に推測させた。
先頭で出てくる変な姿の彼女は髪をかき分けながら「ふふん…」といった面持ちで颯爽としている。
後から人質になっていた銀行員2人が、覆面姿の寝ている男の首根っこを掴まえて出てきた。
涙にくれる女子行員、乱れたスーツ姿の男性など次々と安堵の表情を浮かべている。
「この世の悪はキッチリ型にハメるわよ!」
その言葉と共に彼女は以前と同じアニメから取り出した様な決めポーズを取った。
それを見た周囲の人間は皆ポカーンとしている。
安堵と歓喜に包まれた現場の空気が一転して、しらけたムードになった。
しかし彼女は「決まった!」と言いたげに満面の笑みを浮かべている。
「さあ!騒がしくなる前に逃げるわよ!」
僕の元に近づくと彼女は手を取りながら走り出す。
しらけムードの現場ではその様子を見ながら皆固まっていた。
しかし銀行の中では何が起こっていたのだろう。
ショットガンに対抗できるなんて…
僕は彼女の能力が相手を眠らせる以外にも他があるのではと疑っていた。
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