浜の落とし子たち

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 天からの迎えを待っているのは母だ。  もうずっと待っているが、それが訪れない。 「待ってたら、来るかな」  ういが訊ね返すと、雁次は苦い顔をした。 「空に住む化物のことなんざ、おれは知らねえ。だがな、おまえのお母の探し物がどこにあるのかは知ってるぜ」  思わず目を見開き、ういは雁次を見下ろした。 「探し物って……」 「羽衣(はごろも)だろう」  松の枝から落ちんばかりに、身を乗り出した。 「どこにあるの? なんで知ってるの?」  雁次は腕組みをすると、話し始めた。 「羽衣は、うちにあった。おまえのお(とお)が、うちのじいさんに預けたんだよ。おまえのお母に見つからない場所に隠したかったんだろうな。じいさんは最初は嫌がったけど、結局金を握らされて預かった。でもな、ここのとこ不漁続きだったろ。先日とうとう、じいさんあの羽衣を売っちまったんだよ。勝手にな。だからもう、二度とおまえのお母のところにゃ戻ってこないぜ」  ういは呆然とした。そして訊ねた。 「……なんでそれを、教えてくれたの」  大柄な肩を、雁次は竦めた。 「じいさんが人のものを売っぱらって知らん顔してやがるから、何となく腹が立ったんだよ。それに俺、明日、この村を出んだ」  雁次は、村の古老の家に厄介になっている。雁次が言うじいさんというのは古老のことだ。  雁次の父親は荒くれ者で、酔った上の喧嘩で隣人を殺してしまい、村から追い出された。母親も姿をくらまし、村に残された雁次は古老に引き取られた。  雁次もういと同じで、村の大人や子供が集まる場所に顔を出さない。人殺しの子と呼ばれて爪弾きされている。 「どこか戦場(いくさば)に行ってよ、足軽にでもなろうと思うんだ。運よく大将首でも取りゃあよ、侍に拾ってもらえるかもしれねえ。目指すは将軍様の馬廻りだ」  にいと笑うと、雁次はそう言った。 「おまえも来るか?」  冗談めかして、雁次は言った。  ういは首を振る。戦など、臆病な自分には無理だ。
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