浜の落とし子たち

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 雁次と別れると、とぼとぼと家路についた。  ういの母は、ずっと羽衣を探している。父がどこかに隠しているはずだと思っているからだ。  しかし、もうそれは二度と戻ってこない。  これを、母に伝えるべきだろうか。  迷いに迷い、家に着いて母の姿を見た。  母は繕い物をしていた。  虚ろな顔をしている。  ういは、本当のことを言おうと思った。 「さっき、雁次から聞いた」  ういは母に話した。羽衣はもう戻ってこないと。  母は、頷いただけだった。  夕方になって、父が帰ってきた。  粗末な家に父が入ってくるなり、母は父に向かって言った。 「私の羽衣を、人にあげてしまったんですってね」  父の顔色が変わった。  母が声を荒げた。 「あのね、古老は羽衣を売ってしまったのよ。もうどこへ行ったかわからないの。これでもう、私は萎れ果てて終わるまで、汚らしい(くず)みたいな人間どもの中で腐っていかなきゃいけないのよ!」  羽衣を隠して天女を妻にした男、ういの父は、顔を蒼白にして怒鳴った。 「だからなんだ。おまえはもう十何年も前から、俺の女だろうが。何度言わせりゃわかるんだ!」  きいいと金切り声をあげた母が、父に掴みかかる。  しかし女の細腕で敵うはずもなく、父は母の着物の胸倉を掴むと、顔を平手で張り飛ばした。  ういは震えた。  そして立ち上がると、家から走り出た。  砂が続く黄昏の道を、転がるように駆けた。  雁次のことを思い出した。  雁次に付いて、どこか遠くへ行こう。もしかしたら、戦に出るのかもしれない。  この世の端から端を覆う天と海の境に、赤く滲んだ太陽が落ちてゆくのが見えた。 <終>
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