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 適当に座っててください、と言われ、央樹は落ち着かないまま、小さなテーブルの前に座り込んだ。暁翔はキッチンでコーヒーを淹れているようだ。 「飲み物とかはいいから、話……」 「少し落ち着いて話したいので。おれも緊張してるんです、これでも」  暁翔は手に二つのカップを持って、央樹の隣に腰を下ろした。それからカップをひとつ央樹に手渡す。 「砂糖はもう入ってます」 「あ、ありがとう……」  央樹がカップを受け取ると、暁翔は優しい顔で微笑んだ。それから、央樹さん、と名前を呼ぶ。央樹は緊張しながら、暁翔に視線を向けた。 「さっきの状況をまず、説明してもいいですか?」  問われて央樹は頷く。それを見た暁翔が再び口を開いた。 「まず、おれと猪塚さんはパートナーにはなりません。おれが好きなのは央樹さんだし、パートナーは央樹さん以外に考えられないので。それに、央樹さんを他の誰かに譲ることも考えていません。ここまでいいですか?」 「あ、ああ……」  改めて告白され、央樹が少し赤くなって頷く。それを見た暁翔が更に言葉を繋いだ。 「猪塚さん……彼女はSwitchです。央樹さんが倒れた時、央樹さんがSubだとわかったそうで、初めは央樹さんが狙われてたんですよ」 「……え?」  色々衝撃のあることを聞かされ、央樹は目を丸くする。そんな央樹をくすりと笑ってから、暁翔はそのまま話を続けた。 「あなたと近づきたくて、弁当を作るなんて言って……でも、その時おれと知り合って、今度はおれにパートナーを持ち掛けてきました。できれば央樹さんとおれ、両方とパートナー関係になりたかったようです」  Switchだからですかね、と暁翔が首を傾げる。央樹は、それもあるのかもな、と頷いた。 「どちらにもなれるけど、どちらか一方だけでは満たされないものもあるのかもしれないし」 「だからといって、受け入れるなんてありえないので、お断りしてたんですが、家もバレてしまって、困ってたんです。まさか、央樹さんを連れてきた日に来てて、しかも央樹さんが逃げるなんて思ってもなくて」  暁翔が恨めしそうな顔でこちらを見やる。央樹はそれから視線を外して、手の中のカップに口を付けた。それを見ていた暁翔が小さく息を吐く。 「……央樹さん」  暁翔がそっとこちらに手を伸ばす。央樹が抱えていたカップを取り、それをテーブルに置くと、そっと央樹の体を抱き寄せた。 「好きです。もういい加減諦めて、全部おれのものになってください」  耳元で暁翔が囁くように告白する。その言葉は、どんな媚薬よりも甘く央樹の中に広がって、体温を上げていった。  すぐに『うん』と答えたかった。けれど、央樹にはちゃんと暁翔に言わなくてはいけない事がある。 「僕は……女じゃないから、結婚も子どもも望めない。性格だって、いいとは言えないし、若くもないし、結城にとって、最良の相手ではないかもしれない」  央樹が言うと、暁翔はそっと央樹の体を離した。その顔が悲しそうに歪んでいる。何か言いたそうだが、央樹の言葉に続きがあると信じて我慢しているのだろう。央樹はそのまま言葉を繋いだ。 「ただ……僕も、結城の傍に居たい。ずっと君の、優しいコマンドを聞いていたい。結城に……暁翔に愛されていたい――好きなんだ」
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