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 会社から二駅離れた駅前のビジネスホテルの一室に入った央樹は、暁翔に勧められるがまま、一人掛けのソファに腰を下ろした。 「プレイの前に色々確認がてら話しましょう。お茶淹れますね」  暁翔は備え付けの電気ケトルにペットボトルの水を注いで電源を入れた。それからこちらを振り返り、緑茶と紅茶とコーヒーどれがいいですか? と聞く。 「じゃあ、コーヒーで……砂糖も頼む。結城はマメだな。どうして、パートナーがいないんだ?」 「え、それ、セクハラになりませんか?」  笑顔を向けられ、央樹は、すまない、と素直に謝った。普段、こんなふうに部下たちと話すことがほとんどないから、つい軽口になりすぎてしまったらしい。慌てる央樹を見た暁翔が、くすくすと笑い出した。 「なんて、冗談です。いつも初めはいいんですけど、段々とお互いの欲求が合わなくなってくるんですよね」 「それは……僕も経験あるよ」  央樹の場合、表の性格や雰囲気から、ハードなプレイが好きなように見えるらしい。相手がそうであれば付き合わないこともないが、やはりどちらかが我慢する関係の先に未来はないのだろう。 「簡単にパートナーとかいうけど、恋人作るより難しい気がします」  暁翔がカップをふたつ手にして、こちらへと近づく。小さなテーブルを挟んだ向こうの椅子に落ち着くと、苦く笑ってこちらを見やった。 「確かにな。まあ、僕はまともな恋人もいたことはないが」  まるでモテないわけではないと思う。学生の頃は短い付き合いばかりだったとはいえ、彼女が居たし、社会人になってからプレイの延長で男とも経験してみたら、嫌悪感もなかったので、自分はとても間口の広い性癖なのだと知った。だから、相手に困ることはないだろうと思っていたのだが、ここ数年、純粋な恋人はいなかった。 「それは……主任こそ、どうしてと聞きたいです。カッコよくて、仕事が出来て……女の子の理想じゃないですか」 「愛想がなくて、気も利かない、おまけにSubだからな」  暁翔の言葉に答えると、その顔が少し悲し気に歪む。どう言葉を掛けたらいいのか分からないのだろう。そんな暁翔に央樹は小さく笑ってから、でも、と口を開く。 「仕事が恋人みたいなところもあるから、特に困ってはいない。まあ、結城のようにモテる男を見れば、多少嫉妬はするがな」 「……そんなこと、一度も思ったことないですよね?」  恨めしそうな顔をしてこちらを見やる暁翔に央樹が笑う。すると暁翔は、それに優しい笑顔を向けた。 「主任、笑うと別人ですね。可愛らしく見える」 「なっ……年上をからかうものじゃない」 「からかってるつもりはないですけど……プレイの話しましょうか」  自分の顔がよほど困った表情だったのだろう。暁翔が話題を変える。 「おれは、あまりハードなプレイは好みじゃなくて、甘やかしたいのがメインです。でも、多少は意地悪もしたい。そんなところですが、主任は?」  暁翔がコーヒーの入ったカップを傾けながらこちらに視線を向ける。 「僕は……褒められたい方だ。甘やかされたいし、怖いことと痛いことは苦手で……」  けれどそういったことをしたいDomは多い。央樹はこれまで、ここまでだったら我慢できる、という限界を提示することでプレイしてきていた。相手が不満に思うのも仕方ない。 「そりゃ、Subだって人間ですから、痛いの怖いのが苦手で当たり前じゃないですか。でも、それ聞いて安心しました」  暁翔が優しい顔をする。央樹はそれに胸を高鳴らせた。ついさっきまでただの部下と思っていたのに、DomとSubという関係になっただけでなんだか少し見え方が違うようだ。 「命令(コマンド)は軽いものから試していきましょう。耐えきれないところでセーフワードを言って貰う感じで……セーフワードどうしますか?」 「じゃあ……普通に『やめろ』とか」  央樹が言うと、分かりました、と暁翔が頷く。それから、ところで、と言いにくそうに口を開く。 「おれ、パートナー=恋人のパターンが多くて、プレイがどうしても性行為に近いものになるんですが……大丈夫、ですか?」  こちらを窺う目は真剣だ。確かにそれは確認するべきことだろう。央樹は少し考えてから、大丈夫だ、と頷いた。 「僕もそういうプレイになりがちだし……一晩だけという相手も居たしな」 「一晩だけ……分かりました。じゃあ、今日はまず軽いところから始めましょう。……央樹、こっちに来て……『come』だよ」
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