欲張りDomにかわいい嫉妬(ジェラシー)を

1/2

1398人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ

欲張りDomにかわいい嫉妬(ジェラシー)を

※暁翔視点の後日談です。  金曜日の午後九時。暁翔の部屋には黙り込んだまま膝を抱えてテレビ番組を見ている央樹がいた。固く結んだ唇に、寄せられた眉、ほんの少し眇められた目――央樹の機嫌が悪いことは暁翔には充分分かっていた。  けれど、これは全て暁翔が悪い。いや、過去の暁翔が悪い、と言うべきか。  央樹の機嫌が悪くなる、その発端は二時間前に遡る。 「ようやく、デートらしいデートができますね」  午後七時、央樹と共に会社を出た暁翔が隣を歩く央樹に声を掛ける。 「まあ、付き合い始めてからは、初めてだな」  プレイの前後でご飯を食べに行ったりはしたことがあるし、札幌でも一日付き合ってもらった。けれど、それは央樹の言う通り、付き合う前の話だ。 「初デートですね」 「……だな」  笑顔で央樹に言うと、央樹の顔が赤くなる。それでも少し楽しそうなその表情が暁翔は嬉しかった。 「今日は店予約してるんです。ホテルの最上階にある中華で、景色めっちゃ良くて」 「暁翔は夜景好きだな」 「夜景がというよりは、夜景を見て嬉しそうにしてくれる央樹さんが好きです」 「僕は、そんなに嬉しそうにしてるか?」 「してますね。好きなのかなって思ったのは、何度目かに行ったホテルの景色に見惚れてる時で……札幌で確信しました」 「そうか……確かにキラキラしてるものは嫌いじゃない」  意識したことはなかったな、と少し首を傾げる央樹に暁翔が微笑む。無自覚だったとは予想外だが、好きなら嬉しい。 「あ、もちろんご飯も美味しいので、行きましょう」  まだ首を傾げている央樹の手を取り、暁翔が歩き出す。央樹は、え、と驚きながら暁翔の後を歩いた。 「暁翔、手……」 「大丈夫です。おれたち、ちゃんとしたパートナーじゃないですか」  先日、央樹と共に『パートナー届』を出した。公的に関係を認められれば、仕事での融通もききやすいし、周知されることで動きやすくもなる。最近では、セットで考えられることが多くて、暁翔は少し嬉しかった。  確かにまだ同性同士のパートナーは少なくて、こうして外で密着すると驚かれることもあるが、央樹の首元にカラーが見えれば納得する人も多い。現に今すれ違った女性もそんなふうに表情を変えた。 「……駅に着くまでな」  それでもやっぱり央樹は恥ずかしいのだろう。少し目を伏せ、そう言った。暁翔がそれに頷く。それから央樹の耳元に唇を寄せた。 「我慢できたらご褒美ですよ」  暁翔の言葉に央樹が一瞬で真っ赤になる。それからゆっくりと頷いた。  店に着き、窓際の席で景色を見ながら央樹が、きれいだな、と呟く。きっと無意識に出ている素直な言葉なのだろう。会社での央樹は相変わらずキリっと上司然としているのだが、二人で居る時は素直な言葉をくれるようになった。それだけ央樹が暁翔を信頼してくれているのだと思うとやっぱり嬉しい。 「央樹さん、何か飲みますか? 紹興酒とか、飲めます?」  テーブルにはまだ前菜の皿しか届いていない。央樹の頼んだビールもそろそろグラスが空いてしまいそうだった。 「紹興酒か……」  央樹がそう首を傾げたその時だった。 「暁翔?」  そんな声が背後から届き、暁翔は驚いて振り返った。 「……鈴菜(れいな)……」 「久しぶりね。元気だった?」  鈴菜は暁翔の向かいに座る央樹を一瞥してから、話を続けた。 「あ、ああ……鈴菜は?」  暁翔の問いかけに、元気よ、と微笑む彼女は、暁翔の以前のパートナーだ。もちろん、恋人でもあったが、私のペースで生活したい、優しいだけじゃ満足できない、と言われてから、段々と関係が冷めていって、結局別れてしまった。その頃、央樹のことが気になり出して、結果好きになり、こうして傍に居られるので、その別れも必然だったのだろうと今では思える。 「この店、暁翔も使ってるのね。わたしは、パートナーと待ち合わせで……暁翔は、同僚と?」  言いながら鈴菜が央樹に視線を移す。暁翔はそれに首を振った。 「おれのパートナーで恋人の柏葉央樹さん。職場では上司なんだ」 「……え?」  案の定、鈴菜が驚いた顔をする。それからそのまま更に言葉を続けた。 「暁翔……どういうこと?」 「どうもこうも、そのままだよ」 「わたしにしたようなことを、この人にしてるって、こと? わたしに捨てられて女がダメになったとか……?」  鈴菜の表情が段々と歪んでいく。不浄なものを見るような目でこちらを、そして央樹を見てから、信じられない、と自身の両腕を抱く。 「……君に捨てられたとは思ってない。別れたのはおれの意思でもあるから。それに、君にしたようなことは、この人にはしてない。一緒にしないで欲しいし、そんな顔をするくらいなら何も聞くな」  暁翔がぴしゃりと言うと、鈴菜は少し怒った表情を見せてから、お邪魔様、とその場を離れていった。ほっ、と息を吐いてから向かいを見ると、央樹の表情はいつも通りだった。  やはり央樹は大人なのだろう。こんなことくらいで感情は乱さないのかもしれない。 「暁翔、紹興酒、頼もうか」 「あ、はい」  央樹に言われ、暁翔が店員を呼び、オーダーをする。それからそっと央樹に視線を向けた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1398人が本棚に入れています
本棚に追加