第十七話 予兆

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(あの一連は私がやろうとして後回しにしていたもの。あんな子供が私と同じことを考えているとは思わなかった)  薄珂が提案は護栄にとって『こうなったらいいのに』と思い描いていた理想そのものだった。  自分と同じ発想をできる人材が欲しいと常々思っていた護栄には衝撃だったのだ。  けれど一度だけなら偶然かもしれない。だから護栄は薄珂の真価を確認するため、あえて反撃せず敗北を甘んじて受けたのだ。 「皆には離宮を家賃不要の宿舎として開放する。食堂も無料で使えるので食事の心配はいらない」 「え!? そ、それって、宮廷で生活できるってことですか!?」 「そうだ。だが強制ではない。希望しない者は自宅から通いで良い」  その場の全員がわあ、と歓声を上げた。  それはそうだろう。生活保護や支援金で生活する者の住居は必要最低限だ。悠々自適の広さがあるわけでもないし、調度品を増やして美味しい物を毎日食べるような贅沢はできないのだ。それが宮廷で過ごせるとなれば生活が格段に向上する。嬉しくないわけがない。  全員が声をあげて喜んでいたが、天藍が話はまだだぞ、と手を叩いた。  天藍は手元の台に置いてあった物を手に取り掲げて見せた。それは白く輝く美しい、立珂の羽根を使った首飾りだった。立珂が無償でくれた羽根を首飾りにしたのだ。  目にするや否や、女性はきゃあと声を上げた。 「これはあの立珂殿の羽根飾りだ。皆のことを知った立珂殿が支援したいとこれを下さった。一人に一つを配布する」 「立珂殿手ずからの品は滅多に頂けません。それほどこの仕事は高貴なものなのですよ」 「この品に相応しい働きを期待している。皆業務に励んでくれ!」  わあ、と特に女性は目を輝かせた。受け取るといそいそと首に掛け、髪に括りつけてみたりもしている。  天藍と護栄はふうと一息つき、後は下官に任せて退室した。  執務室へ戻ると、天藍は重たい上着を放り捨てて椅子にどかっと座り込んだ。 「離宮を宿舎にするのは良かったな。無駄だった維持費に意味が出る」 「以前から考えていたんですよ。離宮を住居にできれば生活保護制度予算が削減できますが、勤労できない者に職員同等の福利厚生を与えるわけにもいかず手が止まってたんです」 「じゃあ今回のは最高の言い訳だ」 「はい。おかげで年間白金十以上の費用削減です」 「ほ~……」  白金とは一般ではほぼ扱われない硬貨だ。  金百枚で白金一枚と高額なため、宮廷のように国家規模の経営や大きな取引をする商人の間でしか使われない。  それを二十枚となると、額が高すぎていったいどれほどのものか想像するのも難しい。 「しかしまあ、薄珂はよく思いついたな」  天藍は素直に感心しているようだったが、薄珂に関してもう一つ気になっていることがあった。
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