第十七話 予兆

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(驚くべきは商才よりも人脈だ。殿下に慶真殿、孔雀殿、麗亜皇子、愛憐姫、響玄殿、そして私。これを偶然の産物で済ませて良いものか……)  護栄の聞いている限りでは、獣人の隠れ里へ辿り着いたのも天藍に出会ったのも響玄と知り合ったのも、それは全て偶然のようだった。  けれど護栄に食らいついて来たのは間違いなく薄珂の意思で、まるで立珂を守るために必要な人間を着々と集めていたように見えるのだ。 (……偶然だろう。だがこれは解放戦争を率いた頃の天藍様を思い出す。天藍様も都合の良い偶然が多かった。気付けば数多の権力者から支持を得、だから戦争も三日で執着できた。そして終わって初めて、全ての偶然は天藍様の作る渦の必然だったと分かった)  天藍が勝利できたのは護栄がいたからだと言われることは少なくない。ほぼそれだと言っても良いだろう。  けれど護栄は自分こそ天藍の手のひらで踊らされていたように思っている。  だがそれは外から見ている者には分からないのだ。けれど中にいても、気付くのは戦乱の渦が治まった後だ。 (私が今ここにいるのは偶然かそれとも――……)  護栄は再び何かの渦に巻き込まれているような気がしていた。 「おーい! 護栄! 聞いてるか!」 「え? あ、聞いてませんでした。何でしょう」 「麗亜殿から手紙が来たとか言ってたろ。あれ何だった?」 「ああ、そうそう。何でも明恭に慶真殿を狙う輩がいるそうです」 「なんだ。またか」 「一応把握はしておいた方が良いでしょうね。読みますか?」 「ああ」  内容はさしたるものではない。護栄が気になったのはそれではなかった。 (麗亜殿が動いた。薄珂殿が動いたと同時に)  ちらりと外を見ると、先程業務を指示した面々が離宮へ移動するのが見えた。  ――渦がある。何かの渦が。  護栄はちりちりと胸の奥が焼けているような気がした。
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