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「いてて!オイ!何をする、人が親切に」
女は俺の話しを無視して走って行く。
「オイ!まて!」
俺はカッとなり、女の後を追い掛けた。
女は、長く黒い髪を左右に振り乱し、かなりのスピードで走って行く。
「は、速い、30にもなると、このスピードはキツい。しかし負けてたまるか!」
ドッターン!
女は、滑ったらしく地面に転がった。
「よっしゃ!チャンス」
ようやく俺は、女に追い付いた。
寝転んでる女に俺は話しかけた。
「キミさぁ、何を考えてんだ。あんなところに独りでいたら、危ないことぐらい分かるだろう?」
女は無言だ。
「聞いてる?家が近いんならいいけど、電車は始発まで待たなきゃならない。タクシーに乗る金は持ってるの?」
「……い」
「え?なんて云ったの?」
「うるさいんだよ!オヤジ!」
「うるさいって、なんだよ。それに俺はまだ30になったばかりだぞ、オヤジ呼ばわりされるのは心外だ」
「うるさいって云ってるんだよ、ほっとけよ、他人のことなんか!」
「……キミ、ちょっと顔を見せてくれる?」
女は、わざと下を向いた。
「見せられない理由でもあるのかな?」
それを訊いた女は、上を向き俺を睨みつけた。
「やっぱり。まだ10代だよね、何歳?」
「1 8!文句ある?」
俺は、顔を覆っている女の髪に手をやり、額が見えるようにした。
「やめろ!なに触ってんだよ!大声出すよ」
「1 8なんて嘘だな。せいぜい15だ。大声出したきゃ出せばいい。困るのはキミの方だ。こんな時間に独りで外にいて、タバコの匂いもするんだから」
彼女は悔しそうにしている。
「キミの、その額のアザはどうした。いま転んで出来たわけじゃないだろう」
「ぶつけた」
「ぶつけた?どこに、いつ」
「あー!ほんっとに、ウザいオヤジだな。
早く帰れば?」
「悪かったな。お節介な性格なんでね。ホントに今晩、どうするんだ」
「大丈夫、ホテル代くらい出してくれる人はいるから」
「……まさか『パパ』とか云わないだろうな」
彼女は薄ら笑いを浮かべた。
「ダメだぞ!絶対!」
「なんで?せっかく女に産まれたんだから、利用しないと損じゃない」
「バカ云うな!分かった。俺がタクシー代を出すから、キミの家まで送る」
「絶対ヤダ!今は帰らないから!」
「親とケンカでもしたのか?」
「とにかくイヤなの!パパに電話する」
「やめろと云ったはずだ。しょうがない、俺の家に来い、一晩くらい泊めてやるから」
「オヤジの家に?」
「買ったばかりの新築マンションだぞ。たんまりローンが残ってるがな。それから何度でも云うが、オヤジではない」
彼女はクスクス笑った。
その顔は、まだ幼さが残る少女だ。
タクシーに30分乗り、マンションに到着した。
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