落下〜無重力に堕ちていく〜

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落下〜無重力に堕ちていく〜

もはや何の夢も希望もない工藤竜也(くどうたつや)は、よれよれのTシャツに破れかけたズボン、穴の開きそうな靴を引き摺りながら、ぼんやりといつもの大通りを住処(すみか)に向かって歩いていた。 空を見上げれば嫌味な程の青空が広がっている。その時ふいに風に乗ってとばされてきたビニール袋が頭上から地面に向かって落ちてくる。工藤はその汚れたビニール袋を拾い上げると、同じくゴミ箱から拾ってきた他人の食べかけのあんぱんを入れた。 「もっと、まともなモン落ちてこねぇのかよ……」 通りすがりの名も知らない人間が、工藤を見るたびに距離をとってすれ違う。 (ちっ……ゴミでも見るような目しやがって) 工藤の汚れた一張羅のTシャツは何の汚れか分からないほどに黄ばみ、自身でも顔を歪めるほどの悪臭を放っている。 「臭せぇな……」 (もう長く風呂に入ってないのだから当然か) 工藤がホームレスと呼ばれる種類に分類されてから、3ヶ月が経っていた。 工藤は基本的に食事も寝泊まりも公園でしている。寂れた公園の茂みの奥には数十の段ボール作りの住処が並んでおり、何処にも居場所の無い世の中から忘れ去られた人間達が集っている。 (ここはゴミ捨て場以下の場所だな……) 工藤がようやく公園に辿り着き、自分の住処に向かう途中、木の下に寝転がってる男が声をかけてきた。 「おーい、工藤。後で飲みかけの酒見つけたから持ってくな」  声の主は同時期にホームレスとなり此処で出会った、浜田賢太(はまだけんた)だ。 浜田は下戸でいつも酒を拾えば、工藤に差し入れてくれる。工藤はニヤッと笑って、手を挙げた。 「久しぶりの酒にありつけるなんてな。後で昨日、居酒屋の裏のゴミ箱から拾った焼き鳥もってくから」 浜田も虫歯だらけの歯を見せると工藤に向かって手を挙げた。
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