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【 そして、夏 】
「私、お兄ちゃんのためなら、死ねるよ」
そう泣きながら笑って、あの屋上から飛び降りたのは、3か月ほど前。
あれから私は少し背も伸び成長した。
胸だって、お尻だって、ワンサイズ大きくなったと思う。
今、家を出て、お気に入りのピンクのキャリーケースを左手に持ち、お兄ちゃんの住むアパートの前に立っている。
早朝だけど、8月の日差しはやはり眩しい。麦わら帽子を少し深く被り直し、白いワンピースのポケットに入っているお兄ちゃんにもらったアレを取り出す。
アパートの鉄階段を上った右側の部屋。
覚えやすい『203』のお兄ちゃんの部屋。
部屋の前まで行くと、一度、深呼吸をした。中から何も音はして来ない。
キャリーケースから左手を離し、ドキドキする少し大きくなった胸を押さえた。
そして、右手に持った恋人同士の証『合鍵』で、カチャリと鍵を開け、ゆっくりと玄関を入る。
「お兄ちゃん……?」
私はキャリーケースを玄関脇に置いて、靴を脱ぎながら小さな声で問いかけた。何も反応はない。
そっと、部屋の奥にあるベッドまで歩いて行く。
見るとお兄ちゃんは、スース―と寝息を立てながら、まだ眠っているよう。
(相変わらず、かわいいな。お兄ちゃんって……)
私はこの夏休み、決めていることがある。
中学生最後の夏。宿題を兼ねたお兄ちゃんとの夏体験。
私の、若菜のお兄ちゃんとの『一途な恋の自由研究』だ。
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