【 悪菜ちゃん① 】

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【 悪菜ちゃん① 】

「んん~っ」  距離あと(わず)か1センチのところで、お兄ちゃんが寝返りを打つ。  その勢いで私はバランスを崩し、体が左側へ横に倒れてしまった。 「きゃっ」  そこへ、お兄ちゃんが寝ぼけて私をまるで『抱き枕(だきまくら)』を抱くように、その大きな体を強く巻き付けてくる。  長い左足と左腕が私の体に完全に巻き付き、顔がお互い向かい合う形になってしまった。  目の前にはお兄ちゃんの顔のドアップが。  ふたりは一つになり、お互いのお鼻は既に完全にくっついている状態。 (えっ? お兄ちゃん、もしかして起きているのかな……?) 「お、お兄ちゃん……?」  勇気を出して、小さな声をかけてみた。  すると、お兄ちゃんがそれに気付き、薄目をゆっくりと開ける。  私の体は完全にお兄ちゃんにがっちりホールドされている。逃げ場はどこにもない。  もう、受け入れるしか……。 「んっ……?」 「んん?」 「んん……?」 「んんん?」 「ぐわーーっ!」  そのままがっちりホールド状態で、お兄ちゃんが大声で叫んだ。  お兄ちゃんは驚きのあまり、ベッドから転げ落ち、ゴロゴロと床を勢いよくコロコロローラーのように転がってゆく。  その動きが止まると、私の姿を見て、(あご)が外れちゃうんじゃないかと思うほど、大きな口を開けて目が点になっていた。
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