『生まれるのが10年早かった説』

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『生まれるのが10年早かった説』

昼下がり、某ラグジュアリーホテル内 フレンチレストランで食後の珈琲を前に、 向かい合った4人の 他愛もないお喋りは続いている‥。 A子「あーもうお腹いっぱい〜美味しかったネ」 B子「ネ?自分が満たされると、帰って家族に 夕食作る気がしないわ」 C子「‥主婦は大変ね」 D美「ほんと!ご苦労さま」 このメンバー、 10年前は皆、同じような立場だった気がするが今や、 未亡人とバツイチと、主婦2人という構成員である。 アラフィフも間近な元同級生で、どうやら 〇⚪︎〇〇レスという点では一致している。 時折、隣の芝生が青く見えるのはお互い様だが、 かと言ってこの中の一名だけが、分野別幸せ1位を 全て独占しているわけでもないのが実情だ。 分野とは即ち、旦那の資産とか子供の出来とか、 ダイヤが何カラットだとか、お肌の調子だとか、 体重は維持出来ているか、ちゃんと愛されてるか‥ など、それはもう多岐に亘る。 それぞれお互いの精神的肉体的コンディションを 探りつつ、心の隅で加点減点しながら 自らの位置情報を「このグループ内で一番悪い わけではない‥」と確認する作業は、 今やもう職人技と言えるだろう。 ということで結果的に、気心の知れた居心地が良い 女友達なのである。 ふと窓の外を見遣りながら 「‥あと10年生まれるのが遅かったら〜」と、 B子が、いつものお決まりの台詞をキメた。 それは中年以降の女が、ランチ会で 一度や二度必ずや口にする台詞であるが、 10年と言えば、 「私の10年を返してよ!」は、男との別離の際に 一度は言ってみたいたい常套句ランキング1位に、 常に君臨しているのだ。 実際に使った輝かしい女を、A子は 約3名思い出したが、言われた側の気持ちを思うと、なんだか気の毒になるのはなんでだろう♫ 過去という時間帯の責任問題については、 誰もがモヤモヤするしか無いのだ‥。 気を取り直して、 「そういえばタイムマシン‥やっと 実用化されるらしいね?」 とA子が明るいトピックを持ち出す。 B子「それそれ昨日、私もニュースで見たけど〜 今のところ行けるのは10年後か10年前に 限られるんだって」 A子「イヤん10年後じゃ今より歳取ってるぅ〜」 D美「ていうか死んでる場合も‥」 C子「じゃあ10年前←に行くしかないのね?」 全員「‥うーん10年前かぁ、けっこう しんどかったんだよね、あの頃。色々とさぁ‥‥」 もう一度、過去をやり直すことが可能ならば、 私は、もっと上手くやれるに違いない。 そんな気持ちを内に秘めながら、 しかし、それぞれの胸の内に去来するものについて、 今のところ、開示する者は居ない。 2022年、出来立てホヤホヤの タイムマシンに乗れたとしても、 やっぱりモヤモヤするのは必至であろう‥。 40f76f3b-0c94-45bb-81c8-b0949dbd97d1 A子「この回転扉がタイムマシンだったりしてねw」
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