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弟の不安、兄の不安
「それは…………」
兄の問いかけに、知矢は少しだけ躊躇ってからその理由を話した。
兄の大学へ行き、髪の綺麗な子が好きと言ってたのを聞いたことを。
「……ああ、そういえばそういうこと言ったっけ」
「言ったよ!!」
「……それで知矢はどこまで髪を伸ばすつもりだったんだ?」
「え? それは具体的に考えてなかったけど、うーん……これくらい?」
肩の下辺りを手で示すと、
「……それは、セーラー服着せてセックスしたくなるな」
真面目な顔で典夫に返されてしまった。
「お兄ちゃんっ、僕女の子じゃないからっ」
少々気分を害して声を荒らげると、兄はにんまりと笑う。
「そんなの、俺はお前の体知り尽くしてるんだぞ。こんなかわいいものついてる女なんかいないよ」
そして知矢自身を右手でそっと撫で上げた。
「……っあ……」
体の奥深くで快感がくすぶり始める。
典夫は知矢を優しく擦り上げながら、
「……女を好きになることはできない体には俺がしてやったけど」
そんないやらしい言葉を口にする。
しかし次の瞬間にはふっと顔を曇らせた。
「不安、なんだよ。実の兄弟で恋人同士なんて言う関係、知矢が嫌になったらどうしようって。他の男を好きになったらどうしようってね。魅力的すぎる弟を持った兄は気が気じゃないんだから」
「え?」
嘘。こんなかっこよくてクールなお兄ちゃんがまさか僕とおんなじ不安を持っていた?
そんなの信じられない。
なのに、典夫は怖いくらい真剣な瞳で言うのだ。
「いつも、いつまでも知矢には俺だけを見ていて欲しい。他のどんな存在も許せないし許さない」
「お兄ちゃん」
知矢は兄の胸に飛び込む。
長くなった髪を兄が優しく撫でてくれた。
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