筋肉泥棒

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グリコ先生の筋肉美を盗むために、彼がどんな生活を送っているのか、トレーニング終了時などに談笑の中で、いろいろ質問した。 驚いた。 彼は、食べるものの栄養価を計算し、毎晩、次の日に食べるものを調理し、食べるタイミングに合わせて小分けに収納、保冷バックにて持ち歩いていると言う。 つまり運動後15分以内に良質のたんぱく質と糖質を摂取するためだ。 彼は自分のトレーニングやトレーニング指導の直後、その運動量に見合った栄養素を素早く摂取しながら仕事をこなしているという。 また睡眠時間を確保して常に最良の健康状態を保つため、夜更かしせず早寝早起きを心がけ、街に遊びに出ることもなく、日々、ひたすら自分の筋肉と向き合っているというのだ。 そこまでしなければ、この筋肉は維持できないのか?! というより、そこまでして筋肉を維持することは、幸せなのか?! グリコ先生の生き方は理解しがたいものだった。 いつまでも健康でQOLの高い幸せな生活を送るため、筋トレしようと考えた俺の考えは間違いだったのか?! まるで厳格な修行僧のような生活を送っているグリコ先生だから、美しい(はがね)のように研ぎ澄まされた筋肉を身に着けていられるのだ。 そう考えると! 俺の場合、それでなくても寝る暇のないほど多忙な仕事の合間に、さらに睡眠時間を削ってまで筋トレしたところで、あの美しい筋肉は盗めないということになる。 まして食事の栄養価まで計算して準備することなど俺には不可能だ。 「グリコ先生。俺、仕事が忙しくなると半月もトレーニングできないことが想定されるので、せっかくついた筋肉がすぐ落ちてしまうかもしれない」 心配になった俺が、そう嘆くと、グリコ先生は、こう教えてくれた。 「大丈夫です。筋肉は記憶するのです。大きく育った記憶のある筋肉は、たとえ長い間、小さくなっていても、また鍛えれば、2度目はすぐ大きく育つんです。例えば、子どもの頃にスキーの経験があれば大人になってから少しの練習で滑ることができる。まったく経験のない人とは違います。筋肉自体がスキーで使う筋肉の動きを記憶しているからです。同じように。一度、大きくなった筋肉は少しのトレーニングで復活できるんです」 「なるほど~。ピアノでも一度、練習したことのある曲は、しばらく弾いてなくても何となく指が覚えていますからね」 「そうです。筋肉は学習するんです。全身を動かして学び続けることで、脳の働きも活性化すると言われていますよね」 「確かに!」 俺の知り合いの医者が先ごろ、頭よくなりたけりゃ体を鍛えろ的な本を著したことを思い出した。 運動を継続しているグループとそうでないグループの追跡調査の結果から、運動を継続していると脳の情報処理効率が良くなり、集中力が高まりストレスにも強くなることが判明したらしい。 そんな会話を交えたり、励ましを受けながらトレーニングを続けていた、ある日! グリコ先生が、意外なことを言い出した。
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