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「ダイエット?」 「あなたね、お相手はあの篠原陸翔くんよ?」 「ええと、そんなこと言われましても、知らないので……」  どうして母は怒っているのだろう。 「知らない!? だってあなた桜橋学院に通って知らないなんて……卒業生だとしても伝説のあの陸翔くんなのですよ」 「ああ、お兄様たちはそうでしたね。私は堅苦しいのが嫌だと心安女子学園に通っております。」 「そ、そうだったの? 」  母は私が通っている学校の名前も知らなかったようだ。ちなみに桜橋学院は良家の子息子女が通う由緒ある学院で、エスカレーター式で大学院まである。エスカレーター式は同じだが、もっと庶民的な女子大が私の通う心安女子学院なのだ。春休みが終われば晴れて私も女子大生である。  もちろん、結婚はしても大学は通わせてもらうことになっている。これは篠原陸翔も了承済みだ。 「もちろん進学時にお父様にもお母様にも相談して決めてます」  私の顔すら見ないでウンウン、いいんじゃないって言ってたけどね。 「まあ、それはいいわ。篠原陸翔くんは桜橋学園始まって以来の秀才で美男子よ。 文武両道、あの小さな顔! そしてあの素晴らしいプロポーション! 甘い声まで体がしびれるわ! 今をときめく年頃の女子の憧れの相手なのよ!?」 「あはははは。嘘ですよね」 「なに言ってるの。本当のことよ? ああ……彼の素晴らしさもわかっていないあなたの婿になるだなんて!」 「ええとお母様、私が気に入らないなら別の方にしてもらってください」 「はあああああ? なに、その上から発言! 陸翔くんとの縁談を断るつもり!?」 「……どっちなんですか」 「あああああっ、義理の母になれるチャンスをみすみす逃したくない! でも、祥子が、こんなことになってようとは!」 「え。こんなって?」 「あのイケメンの陸翔くんの隣に立つというのに、そんなだらしない体でどうするのです。女の子の憧れの人なのよ! きっと結婚式はたくさんの人の興味を引くわ! ありえない! 西園財閥の娘よ? 不細工なわけじゃないのに! ああ、どうして今まで放っておいたのかしら!」  あっ、自分から放っていたって言った! しかし母の目が血走っている。これは。ムリ。まずい。回避、回避! 「そんな素晴らしい人と結婚するなんてムリです。私はそのへんの石ころがいいんで、チェンジで!」 「でも、上の二人は縁談が決まっていて、残るは祥子しかいないじゃない! こうなったら、ダイエットよ。その肉の城壁をそぎ落とすのよ!」 「いや、だって……」 「……いい? 半年後の結婚式までには、マイナス十キロ……いいえ、マイナス十五キロよ!」 「えええええっ」 「明日から先生(トレーナー)をつけてあげるから励みなさい。今からおやつは抜きです」  ドカドカとこちらにきた母は、私が食べていたお菓子の入ったトレーを取り上げてしまった。 「そ、そんなあ!」  余りの母の横暴さに声が上がる。どうしてそんな見ず知らずのイケメンのために頑張らないといけないというのか! ありえない。  次の日、朝から私の部屋にはすらっとした筋肉質のダイエットトレーナーだという人が現れた。 「奥様に派遣されました。メイサです。これは聞きしに勝る白パン具合ですね……」 「はあ……」 「まずは体重から計っていきましょう」 「ひいいいっ」  イヤイヤのせられた体重計の針は九十二キロを示していた。あれ、九十超えてるの? やばっ。それからメイサは私を痩せさせるためだと、身長、ウエスト、二の腕、太ももを計り始めた。 「祥子さま、私も桜橋学園の卒業生なんです。あの篠原様と結婚するのです。このくらいの試練は乗り越えられますよね」 「えええ……」  お前もそれか! 私を親の仇のようにしごきだしたメイサも篠原陸翔に憧れていたに違いなかった。 「祥子様! もっと足を上げて! はい! ワンツー、ワンツー!」 「ハ、ハア、ハア……」  下を向くだけで汗が垂れてくる。セレブご用達の鍛錬場に連れていかれて、運動を余儀なくされ、食事は監視がついた。  し、死ぬ……。 「さあ、頑張るのです! 篠原様の妻となるために!」  だから、誰なんだよ! 篠原陸翔って! 「もう一セット行きますよ~! 脂肪燃焼! 前向きに! 理想のボディを思い浮かべて! はい!ワンツー! ワンツー! 」 「ハア、ハア、ハア……」 「ほらほら、腕をあげて~!」 「ハア、ハア、ハア……」 「篠原様が応援してくださってますよ!」  してるわけないだろー!!  ああ……。  見たこともなない篠原陸翔様よ……。  すでに私はあなたが大っ嫌いです。
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