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47 「だから、夫と父が戻り次第ご連絡しますから。こちらへはこないでください」 「それじゃあ、遅いの。陸翔様が戻られる前に、あなたに出て行ってほしいのよ」 「どうして私が出ていくのですか」 「こっちには子供もいるのだから、譲ってよ。政略結婚なんでしょ?」 「あなたじゃ、政略にもならないですよ」 「なんですってぇっ」 「はあ……今日はもう家には入れませんからね」  昨日は押し入られたけれど、今日は絶対に入れないぞ。  どうやったらこんなに強引になれるのよ。 「寒いわ、中に入れてよ。怜雄のおむつを替えさせて」 「タクシー呼びますから、ホテルにお帰りください。そしてそちらでわがまま言ってください」 「だって、あの山里って秘書、お金を借りたら全部証文とってくるの」 「当り前でしょう? 私もおむつと肌着のレシートとってますからね」 「な、なんてケチなの!」 「お金を持ってない人に言われたくないですね。さ、お帰りください」    礼央奈の背中を押して、門を閉める。  さあ、もうインターフォンでも対応しないぞ、と思っていたら、黒塗りの車が止まった。  中から出てきたのはブランドスーツをきっちりまとった母だった。  後ろにボディガードを二人つけている。  え?  なぜ、母が。  まさか、私の異母姉がいるのが……。  サーっと血の気が引く思いをしていると母が礼央奈を頭のてっぺんから足の先まで見分するように眺めた。 「あなたが、塩原礼央奈っていう子?」 「は、はい」  母に問われて礼央奈がぽかんとしていた。  早く子供を連れて逃げるんだ。  ラスボスのお出ましだぞ! 「祥子。塩原さんとお話がしたいの。家に入れてくれるかしら」 「え、ええと……」  母はすでに礼央奈を誘導して家の中にあげた。  何も知らない礼央奈は嬉々として家の中に上がり込んだ。  危機感ないのかよ。  暗雲立ち込めてるっていうのに。  なにが起こっても知らないから!  応接間に通すと赤ちゃんを当然のように雅代さんに渡す礼央奈にちょっとイラッとする。  女王様のようにソファに座った母がじっと礼央奈を見つめた。 「それで、あなたが会長の娘と言うのは本当なの?」 直球できた母。  やっぱり、父の不倫の子がここにきているのがバレている……。  礼央奈はまた例の写真を出してきた。 それを確認した母の表情は恐ろしいものだった。 「立花 弥生……」 「母の知り合いですか? 立花は母の旧姓です」  母の正体に思い当たらないのか、礼央奈はニコニコしていた。 「礼央奈さん……あの、その人は」 「母の知合いなら少しお金を工面していただけないですか? 返済は西園会長にお願いしますから」 「どうして西園会長があなたの返済をするの?」 「実は、実父なんです」 「お会いしていたの?」 「いえ、お会いしたことはありませんが、血のつながった娘ですから」  まさか母にお金の無心をするとは思わず、私はハラハラしていた。  父はケチではないが、無駄使いはしない。  血がつながってようが娘の散財にお金を払う人ではない。 「西園家では血がつながっていても、お金の貸し借りはしませんよ」 私が教えたのが気に入らなかったのか礼央奈があきれるような顔で私を見た。 「それは、あなたが可愛くないからではないですか? 会長も政略結婚なのでしょう? 愛情のない正妻の子より、愛した女が生んだ私のほうが可愛いはずだもの」  その言葉は母の地雷で、礼央奈は両足で踏んでしまった。 「愛情のない正妻、ですって!?」  そこへつんざく声が上がる。 「え……」  礼央奈がさすがに驚いて固まっている。  そりゃそうだろう、こんなに恐ろしい生き物はいない。 「もう一度、言ってごらんなさい。お前のその汚い口を針で縫い付けてやるから」  うわっ、母の目がイっちゃってるよ……。  私はこれ以上の被害が出ないように、異母姉に教えてあげることにする。 「その人は私の母ですよ」 「ひいいっ」  それを聞いた礼央奈は泡を吹きそうだった。 「なるほど、顔は確かにあの人に似ているわね。よくもまあ、面の皮厚く私の目の前に出てこれたわね」  いえ、勝手にきたのは母ですよ……怖いから突っこまないけど。  なにも悪くない私まで額に汗が。 「北海道の塩原に嫁いで大人しくしていればいいものを……お前を寄こすなんてあの女の頭はそうとうイカれているようね」  ひいいいいいっ  ラスボスが超絶お怒りモードである。  先ほどから礼央奈も顔面蒼白。  あまりの迫力に雅代さんも赤ちゃんを抱きながら震えていた。  このままだとこの場で殺人が行われる!  私とリクの新居で、やめてくれ!  陸翔~!  なんでこんな時にいないんだよ!  誰も怒り心頭の母を止められる気がしない。  礼央奈もブルブルと震えているだけである。  そこへインターフォンがなった。  だ、誰!? 「北海道からきた塩原と申します。娘がお世話になっているようで……」  そこへ礼央奈の両親が到着……。  どんどんカオスになる予感。  もーっ!  よそでやってくれ!  よそで!
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