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はーっははははあっ! 現在八十九キロ。
三キロごときでわたしの見てくれは変わらない!
どうだ驚いたか、
全然変わってなくて!
そうして結婚式当日。白無垢に身を包んだ私を見て、お母様は頭を抱えていた。篠原陸翔は今日も安定の美青年は袴も美しく着こなしていた。
「出張ばかりに行って、半年あなたを放置してしまった私をお許しください」
私の手を取った篠原陸翔はそう言った。うんうん。ほっといたせいで太ったままさ。
「いえいえ、あなたは立派に責務を果たしてこられたのですから」
にっこり笑って返すと彼は私をじっと見てから黙った。
参列者は完全に新郎の方ばかり見ていた。ふふん、添え物の白パンは大きい方が見栄えもいいだろう。
そうして神々しいまで美しい旦那様を隣に、私は神社の床をドシドシと踏みしめたのだった。
神社での結婚式は極近い親戚だけでおわり、そこから着替えて結婚披露パーティ会場へと移った。私の友達は大学のエスカレーター組だが二人しかいない。結婚すると知って急に友達になろうとした人はいたけど、当然のことながら断った。なので、自分の結婚パーティなのに招待客はたった二人。完全にアウェイだった。
それに加えて兄姉たちが自分たちの友達をたくさん呼んでいる。彼らは桜橋学院の卒業生たちだ。
父の挨拶と乾杯の音頭が終わって、新郎があちこちに駆り出された。ぽつんと高砂席に座る私のところに大学の友達のみーちゃんとゆっこがきてくれた。
「ショウちゃん……おめでとう、着物とっても似合ってて素敵だよ。旦那様とお幸せにね。でも、私たち場違い感半端なくて」
地味グループの私たちには華やか過ぎるこの会場。しり込みするのも無理はない。私が逆の立場でも逃げ帰ってしまいたいだろう。
「ごめんね。わざわざ来てくれたのに、兄さんたちが知り合いをたくさん呼んでしまって、大迷惑だわ。でも、お料理は最高級なものを用意したから、たらふく食べて帰ってね」
「ショウちゃんは? 一緒に食べに行こうよ」
二人が勇気を出して誘ってくれたけど、私は母に『食べるなよ』と脅されていた。結婚式までに太ったままでいるという計画は成功したが、そのせいで今日の料理に手が付けられないことになってしまったのだ。
復讐とは諸刃の剣である……グフゥ……。
しかし二人に『ダイエットを失敗して母に食べるのを禁止させられた』と簡単に経緯を説明すると
「ショウちゃん、そんなに頑張ってたのに、こんな日にまでダメってひどいよ……」
と一緒に怒ってくれた。
そして……。
もぐもぐ……ごくん……。
もぐもぐ……ごくん……。
はあ~、うまっ、うまあああっ。
「今なら誰も見てないよ。私たちが目隠ししている間に、食べて、ショウちゃん」
友人二人は私にこっそりとビュッフェの食べ物を運んでくれた。そして私が食べている間、隠してくれた。もう、なんて天使たち! そして、最高級の炭水化物に脂質たち最高!
着物の帯がはち切れそうなほど食べた私は大満足だった。
ありがとう友よ!
「じゃあ、私たちは帰るね。また、学校で」
パーティは入れ替わり立ち代わり人が動いていたので、二人は二時間ほど付き合ってくれてから帰った。その間、篠原陸翔が席に戻ってくる気配もなく、母にもう私は帰っていいかと聞きに行った。
「陸翔さんはあちこちで捕まっているからね……仕方ないわね」
そう言いながら母は父とアイコンタクトを取った。父も頷いたのでさっさと私はパーティ会場を後にすることになった。
どのみち、このホテルのスイートで泊まる予定なのである。
「では」
そう言って立ち去ろうとする私に母が着物の袖を引いた。
「その、夫婦になったのだから……いろいろと、その、陸翔さんにお任せするのよ?」
「はあ」
私の全身を見て残念そうに母が言った。
私はさっと篠原陸翔を目で探した。私のできたてホヤホヤの夫はどこかの偉い人とワインを片手に談笑していた。
あれならすぐに部屋にくるまい。
そうして先にスタッフに声をかけ、着物を脱いでしまってもらうと、ゆったりめのワンピースに着替えてスイートルームに向かった。
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