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「リク、パパが帰ってきたよ!」 ケージの中のリクに声をかけたが、おがくずの中のリクは眠っているのかお尻を見せているだけだった。 「え、パ、パパ!?」」 「陸翔がそう言ったんじゃないですか?」 「あ、いや、そうなんだけど」  陸翔が顔を真っ赤にして手で口を覆っている。もうにやける顔が止まらないようだが、まあまあキモイ。 「仕事を放り出して大丈夫だったんですか?」 「大丈夫だよ。ここぞというときのために普段から根回ししているからね」 実は父は陸翔の実力を一番評価していると噂で聞いている。 陸翔が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。 「ショウちゃんこそ俺に不倫に子供疑惑まで出てきて不安だったでしょう?」 「まあ、そうだけど」 「でも、ショウちゃんは初めから疑いもしなかったって母さんが伝えてきたよ」 「ええと、まあ」  礼央奈が巨乳だったら疑っていたかもしれん。  あれから電話でことの顛末を聞いた。 塩原夫妻は西園と縁を切られ、グループの援助も打ち切り。工場は小規模に縮小するらしい。 借金してまで娘を甘やかして贅沢させていたらしく、今後は礼央奈が工場で働いてそのお金を返すことになったらしい。 母親として自覚をもたせる、と再教育に塩原家で頑張るそうだ。 わがまま放題した礼央奈がどうなっても知らないが、子供には罪はないので幸せになってほしい。  聞くところによると礼央奈は東京に住んで桜橋学園に入ることに憧れていたそうだ。  けれど、私の父と塩原の父とでの約束で西園には近づかないと決められていたために、断念させられたらしい。 しかし友達の一人が桜橋学園に入学。彼女が篠原陸翔の熱狂的ファンになったためにその影響を受けて礼央奈も陸翔のファンになったそうだ。 どうにか東京に行きたかった礼央奈はお金を持って家出、こっそりと東京で暮らし、イケメンバーテンと恋に落ちた。 しかし、子供までできたのにお金が無くなると男は消えてしまったらしい。 途方に暮れた礼央奈は北海道に帰るが、その時両親が西園と所縁があることを話していたのを聞いて自分のことだと勘違いしたようだ。  自分と年も変わらない異母妹の私が陸翔と結婚したと勘違いして大激怒。留守の間に私を追い出して取って代わろうと思ったようだ。んなバカな。 突っ込みどころが多くて理解不能だわ。  それから両親がやたらとかまいだして、家に招待された。  私は陸翔に相談して、今度二人で遊びに行く予定だ。    急いで海外から戻った陸翔は二日ほどお休みをもらった。  あらゆる手を使って戻ってきたらしい、陸翔……。  頑張って帰ってたのだからねぎらってやらなくもないけれど。 「雅代さんにも聞いたよ、ショウちゃんが俺の名誉のためなら闘うって言ったって!」 「そんなこと言ったかな」  ちょっと違う気もするけれど、まあ、同じなのかな? 「俺って、ショウちゃんに愛されてる!」  満面の笑みで嬉しそうにする陸翔。  うーん、愛してるっていうのかな。これって。  自分の生活を守ろうとしただけだよね? 「はい、今日の分」  久しぶりに見るピンクの縦縞模様の箱がでてくる……。  中に手を入れて引くと陸翔の前に二つに折られてカードを差し出した。  陸翔がカードを開くとそこには  おかえりなさい、なでなで  と、書いてあった。  それを見た陸翔はハッとしてからクスクスと笑った。 「バレちゃったんだ」 「箱の中には袋が二つ入っていて、箱を差し出すときに好きなほうを引かせることができたんですよね」  おかしいと思って私は陸翔の留守中に箱のからくりを調べたのだ。  もう、思い通りにはさせないぞ。 「まあ、なでなでも悪くない」  そう言って体を低くして頭を差し出した陸翔に私は『よしよし』と横柄な態度で頭を撫でた。 「きゃっ」  大人しく頭を撫でさせた陸翔はそのまま腰に腕を回して私を抱き上げる。 「うーん……ちょっと運動が必要なんじゃないかな」 「ええと……」  陸翔がいない間に気が緩んだ私はお菓子を堪能してしまっていた。  ただいま七十二キロ……の二キロオーバーである。 「あっ」  抱えられた私の足にピンクのストライプの箱が当たって床に落ちてしまった。  バラバラと中のカードが箱から舞い散った。 「後で拾えばいいよ」  陸翔はそう言って私をベッドに運ぶ。  ふと床に落ちたカードの一つの中身が見えた。  愛してると言ってキスをする  なるほど、陸翔は帰ってきて私にそうして欲しかったようだ。  私の夫は案外可愛いところがあるんだなぁ、と思うと頬が熱くなった。 「どうしたの? 頑張ってきたからショウちゃんを堪能させて」 「……ほどほどでお願いします」 「俺はショウちゃんが恋しかったんだけど」 「私はいろんなことがあって退屈しませんでしたね」 「つれないなぁ……」  残念そうに言う陸翔はすでに私の胸に顔をうずめていた。 「はあ……癒される。サイコー……」  太ったからもみ心地もいいのかもしれない。  しっかし、好きだよね……。 「陸翔……」 「なんだい?」 「いつものやつ言ってもいいですよ」 「いつもの?」 「いつものです」  少し考えて思い当たった陸翔は嬉しそうに笑った。 「愛してるよ、ショウちゃん」 「あーハイハイ」  私の答えは変わらないけれど、ずいぶんこの言葉にも慣れてきた気がするのである。  まだよくわからないから、私からは愛していると言わないけれどね。  そうして私はもう少し愛を乞う夫の姿を眺めてみることにした。
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