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夢を見る。
全てが壊れた日。
全てを失った日。
暗黒の怪物が、全てを破壊する。
家も、人も、何もかも。
壊されたものは炎に包まれ、灰燼に帰す。
壊されたものも、そうでないものも、怪物の瘴気に巻かれ、蝕まれる。
それは、俺自身も包み込んだ。
だが、一瞬だけだ。
直ぐに助けてくれた。
母さんが。
怪物へと向かって行く。
親父が。
俺たちを逃す為に。
俺たちは死に物狂いで走った。
けれど、その途中で俺は、熱と苦しさで気を失った。
目が覚めるとーー。
(´・ω・`)「……夢、か……」
ショボンが目を覚ますと、視線の先には木造の天井があった。
見覚えの無い天井だ。
それもその筈。
ショボンが今いるのは、兄のシャキンと移住し、住み慣れたワナイス村の自宅の自室ではなく、そこから北北東に進み、渓谷を抜け、丘陵地帯を抜けた先にある村ーーツドゥスの宿屋なのだから。
体を起こし、ベッド横の窓を見る。
窓は分厚いカーテンで閉まっているが、その隙間から日の光が差し込んでいた。
備え付けの時計に目を向ければ、時刻は既に午前九時に差し掛かっていた。
(´・ω・`)「寝過ぎた…」
そう思いながらも、未だ眠気に苛まれ、瞼が重い。
ベッドに腰掛け、両手で頭を抱える。
悪夢を見たのもあるかもしれない。
否、あれは悪夢であって、悪夢ではない。
現実だ。
現実に、過去に起こった出来事なのだ。
(´・ω・`)「……胸糞悪い」
ショボンは悪い方向に引っ張られそうになる思考を振り払うように頭を振り、洗面所へと向かった。
顔を洗い、備え付けのタオルで顔を拭きながら、カーテンを開く。
目映い日の光がショボンを包み込み、反射的に目を瞑る。
だが、それと同時に、心地良い太陽の温もりも感じる。
目を開けると、窓から村の中を眺めることが出来た。
とは言っても、ショボンが借りている宿は一階の為、視線は低いが。
それでも、ワナイス村以上の多くの行き交う人々と、道端の露店が目に入る。
露店はまだ準備中のようだが、それでも既に炭や香ばしい匂いが届いている。
(´・ω・`)「昨日の夜にはもう終わっちまってたからなぁ」
そう独り言ち、昨日の一部始終を思い出す。
ゾンビでパニックになった三人は、そのまま全力疾走で村まで向かった。
良く良く考えれば、ゾンビは動きが鈍い為、そこまで慌てふためく必要は無かったのだが、あの時はブーンとドクオの勢いに乗せられていたのだろう。
既に閉じていた門を叩き、出て来た門衛に訳を話して村の中に入れてもらう。
三人の満身創痍の姿を見せて驚かせてしまったのは、もうご愛嬌だ。
門衛の人に宿屋の場所を教えて貰い、宿屋に着くと適当に空いている部屋を見繕って貰い、それぞれに分かれた。
宿屋の旦那はぶっきらぼうな口調だが、人が良く、わざわざ部屋まで食事を届けてくれた。
簡単なサンドイッチと余り物だと言うスープ(ポトフ?)は、それでも十分過ぎるくらい、疲労困憊だった体に沁みた。
腹も満たし、居眠りしそうになりながらも風呂に入り、ベッドに横になると、そのまま眠ってしまったようだ。
(´・ω・`)「あの感覚も久々だったな…」
ワナイス村に居た頃は、これほど力尽きるまで戦い抜いた事は無かった。
それこそ、生来の故郷を失い、兄と共に放浪しながら武者修行していた時以来だろう。
そんな状態だったからか、装備品や荷物の置き方が雑だ。
因みに今、ショボンは防具の下に着るインナー状態だ。
下着と言う程、露出が高い訳でも無く、ピッチリと体にフィットする長袖タイプのものだ。
意外にも通気性が良く、保温・保冷性もある。
軽く置き場を整理しつつ、序でに荷物も整理する。
(´・ω・`)「そう言えば、黒竜騎士の遺物、適当な回収だったな。一応、後で相談しながら分けないと」
そう言えば、とショボンは疑問を浮かべる。
今、二人はどうしているだろうか。
寝ていてもおかしくないが、案外、起きていても不思議ではない。
空腹なのもあり、腹拵えも兼ねてショボンはショートパンツとシャツを着て部屋を出た。
念の為、鍵もしっかり掛ける。
一応、二人の部屋にも向かう。
二人ともショボンと同じ一階の部屋になっている。
二階は既に満員だった。
二階はどう言う構造かは分からないが、一階は通路を挟んで左右に部屋が用意されている。
ショボンは一番、手前の右側の部屋だ。
因みに通路はL字に折れ曲がり、縦線方向に行くと宿屋のカウンターやテーブルが置かれているエントランスに繋がっており、横線方向に部屋がある。
二人が泊まっている部屋は既に確認済みだ。
ブーンの部屋はショボンの部屋から二つ先の部屋。
ドクオの部屋は、その正面の部屋だ。
その程度の距離感なので、あっという間にブーンの部屋の前に到着する。
もし寝ていたら申し訳ないとも思うが、ブーンならノック程度では起きないだろうと考え、容赦なく、木の扉を四回叩く。
やはりと言うべきか、反応はない。
果たして寝ているのか無人なのか。
念の為、もう一回扉を叩くが、反応が返ってくる事は無かった。
ならば一旦、ブーンは置いておき、ドクオの部屋を確認する。
ブーンの部屋の扉と同じように、四回叩く。
同じように、静けさが漂う。
もう一回叩く。
叩こうとして、その直前に、向こう側から二回ノックが返ってくる。
どうやら、ドクオは部屋に居たらしい。
返すように、ショボンも二回ノックを返す。
すると、向こう側から扉が開いて、主が顔を出す。
('A`)「はいはいーっと。って、ショボンか」
現れたドクオは、インナー状態で髪も寝癖が付いた、いかにも寝起きと言った風体だ。
(´・ω・`)「おはようさん。寝てたか?」
('A`)「いや、起きてたけど装備品の整備してた」
そう言うドクオの指先は僅かに汚れている。
(´・ω・`)「そいつは偉い。ところで、ブーンの反応が無いんだけど、何か知らない?」
('A`)「ああ、アイツなら飯でも食ってるんじゃ無いか?若しくは、外で買い食い」
そう言って呆れたように肩を竦める。
確かにありそうだ。
(´・ω・`)「それなら、ドクオも一緒に朝食に行かないか?ブーン探しも兼ねて」
('A`)「そいつは丁度良い。俺も早めに起きたは良いけど、朝飯まだだったんだよ」
(´・ω・`)「装備品の整備に夢中だったって訳ね」
('A`)「そゆことー。ちょっと待ってくれ。軽く片付けて着替える」
そう言ってドクオは部屋に引っ込み、ショボンは外で待つ。
五分も経たず、薄い半袖パーカーに膝下程度のショートパンツ(上下とも黒)姿のラフなドクオが出て来る。
(´・ω・`)「じゃあ行こうか」
('A`)「腹減ったー」
二人は通路を進み、宿屋のエントランスへと向かった。
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