第八章『休暇』

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放たれた大矢がドクオへと迫る。 ドクオは半身を逸らすように回避を試みる。 大矢はドクオの左肩を狙ったものだった。 何とか躱すことに成功するが、恐ろしい精度と速度だ。 半ば不意打ちとも言えるものだったが、ドクオは卑怯とは思わない。 戦闘開始から即座に動かなかった自分が悪い。 相手の出方を窺うような甘さがまだあった。 目の前の冒険者ーー外套の射手は、本気でこちらを狩りに来ている。 ならば、とドクオも即座に切り替える。 相手に応じるのが剣士の努めだ。 ドクオは回避して体勢を立て直すと同時に、背中の直剣を抜刀する。 オーソドックスなロングソード。 以前、使っていたものと同じものだろう。 訓練用に、刃がない木製の覆いを被せられ、若干、重さが増しているが、今はその重さが丁度良い。 このまま距離を離された状態では、射撃の的にされ続けるだけだ。 多少、リスクが高くなっても、距離を詰めるのが、対遠距離戦の定石。 ドクオは地面を蹴り、射手へと駆け出す。 射手は既に、次の矢を引き絞る構えに入っている。 大弓を水平に構え、片膝を突いて体勢を低くし、大矢を引き絞る。 疾い。 先程は、距離があった為、多少余裕をもって回避出来た。 だが、先程よりも距離が縮まったこの状況で、発射されるのを見てから回避するのは至難だ。 故に、ドクオは大矢の、矢尻の尖端に集中する。 矢の先端が向いた方向が、矢の軌道だ。 後は、放たれるタイミングを見極める。 だが、突進の速度は緩めない。 ここで立ち止まってしまえば、この第二射は凌げるだろう。 しかし、続けて三射目に晒される事になる。 それでは今以上にリスクが高い。 敗戦も濃厚だ。 正直、勝ち負けには拘っていないが、手も足も出ずに負けるのは真っ平ごめんだ。 それに、ドクオはまだ、彼女が何かを隠しているように思えた。 彼女の武器は、大弓だけでは無い。 追い詰めて、それを暴きたかった。 研ぎ澄まされた思考の下、時間が引き延ばされたような感覚の中で、遂に矢が放たれる。 更に精神と思考が鋭敏となり、体感時間が緩やかになる。 まるで静止しているのかと錯覚してしまう緊張した時間の中、ドクオはただ一点、外套の射手の顔部分だけを見ていた。 時が止まったのかと思うほど、鈍く感じる自身の肉体を動かす。 大矢の軌道上にあるのは、ドクオの腹部。 このまま受ければ、ドクオは大きく吹き飛ばされることだろう。 ドクオは地面を蹴った。 空中に身を躍らせ、そのまま身を捩る。 身を捩ったことで仰向けになったドクオの真下、ドクオの背後を大矢が過ぎる。 その瞬間、引き伸ばされていたように感じていた体感時間が元に戻る。 ドクオは着地と同時に再加速し、射手へと迫る。 射手はまだ大矢を番えてはいない。 大弓を左手に持ったまま、大矢を取る為か、右手を後ろに回している。 (#'A`)(行けるッ!!) 直剣を右から左へと水平に振るう。 剣技ではない、普通の斬撃だ。 だが、その斬撃は洗練された精度、威力共に生半可なものではない。 射手の左肩を狙った攻撃が迫る。 その瞬間、射手は体勢を低くして斬撃の真下に潜り込もうとする。 (#'A`)(逃がすかぁッ!!) 完全に潜り抜けられる前に、ドクオは速度を早める。 ドクオの斬撃、その切っ先が、射手のマントのフード部分を捉える。 フードが剥がされ、その下に秘されていた素顔が顕となる。 ξ ゚⊿゚)ξ 日の光を浴びて黄金に輝き揺らめく、巻かれた二房の髪、鋭い光を宿した宝石のように煌めく碧い瞳。 そして、それらの要素に引けを取らない美貌を有し、長い耳を持つーー森人(エルフ)だ。 射手はそれでも一切、動じる事なく、止まらない。 ドクオへと肉薄し、右手に握った武器ーー短剣で攻撃を見舞う。 やはり、射手の武器は大弓だけでは無かった!! ドクオは直剣を引き戻し、刀身の腹で短剣を受ける。 一応、相手の短剣も、訓練用のものだ。 ξ ゚⊿゚)ξ「距離を詰めれば、勝てると思った?」 鍔迫り合いのようになり、射手が話しかけて来る。 (;'A`)「まさか。何か隠し玉があると読んでたよ。そいつが見れて嬉しいくらいだ」 大弓と短剣。 遠距離では大弓で狙撃、牽制し、近距離では隙の少ない短剣で応戦する。 隙の無い構成だ。 ξ ゚⊿゚)ξ「その余裕、いつまで続くかしらね」 射手は短剣を押し込み、ドクオの直剣を弾こうとする。 ドクオはそれを受け流すように直剣を振り抜く。 その直後、二人が斬り掛かるのは、ほぼ同時だった。 ドクオは上段からの振り下ろし、射手は逆手での水平斬り。 両者の斬撃が交差し、火花を散らす。 だが、斬り合いでは刀身の長い直剣に分がある。 故に、射手は短剣で受け止めるのでは無く、打ち払うように弾く。 続けて、二撃目、三撃目、と、両者は斬撃を繰り出し、刃を交わす。 ーーと、そこで、射手が後退する。 (;'A`)(矢を撃つつもりか!) そうはさせまいと、ドクオは距離を詰めようとする。 だが、射手の矢を構える速さは、ドクオの想像以上だった。 ドクオが斬り掛かるのと、射手が大矢を引き絞り終えるのは、同時だった。 (;'A`)(ッ!一か八かだ!) 剣技を繰り出す。 垂直斬り、バーチカル。 ドクオの直剣が振り下ろされ、射手が大矢を放つ。 大矢の軌道上にはーードクオの直剣。 剣技と大矢が衝突し、凄まじい衝撃が空気を揺らす。 (;゚A゚)「くッーーぉぉぉぉおおおおおッ!!」 ドクオは剣技が弾き返されないように踏ん張る。 だが、ドクオの直剣は大きく弾き上げられる。 手から直剣が離れてはいないものの、今ドクオは大きく隙を晒している。 だが、射手の方も、矢を撃ったばかりで、直ぐには射撃に移れない。 だが、射手にはもう一つ、武器がある。 大弓での攻撃が間に合わないのならば、近距離であれば、短剣を使えば良いのだ。 射手は短剣の剣技の予備動作を起こす。 予備動作から発動までが最も早い短剣剣技、単発超高速技ーー《ラピッドエッジ》。 単純な刺突。 故に癖が無く、短い隙にも打ち込める。 煌めく切っ先がドクオの胸部へと吸い込まれる。 (;゚A゚)「ぐッーーぁぁぁぁあああああああああああッ!!」 ドクオは剣技を弾き返され、硬直する肉体に鞭打ち、咆哮を上げる。 剣を握った右手は動かない。 だが、まだ左手も、両脚だってある。 最後まで足掻く。 最後まで抗う。 ドクオは、を胸の前に咄嗟にかざす。 ドクオが左手に握ったものに射手の短剣が突き立つ。 ドクオは大きく突き飛ばされるが、前にかざした何かが射手の剣技を軽減し、まだ戦う事が出来る。 ξ ゚⊿゚)ξ「……シブといわね。今のでやられてたら、楽だったかもしれないのに。まだやる気なの?」 射手は追撃せず、起き上がろうとするドクオを眺めている。 (;'A`)「はっ…当たり前だろ…!折角、望んだ戦いが実現したんだ…!この程度で辞められる訳ねぇだろ!!」 そう言い、ドクオは直剣を握った右手を前に突き出し、切っ先を射手へと向ける。 そして、その左手には、短剣が握られ、それを右手に添える。 対する射手は深く溜め息を吐き、大弓を構える。 ξ#゚⊿゚)ξ「良いわ。あんた、アイツとは違うみたいだし……そこまで言うなら、私を満足させて見なさいッ!!」
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