第八章『休暇』

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距離が離れている為、射手は大弓を構える。 本命の攻撃か、牽制か。 だが、どちらにせよ、ドクオに取れる行動は吶喊(とっかん)ただ一つ。 地面を蹴り、射手へと疾駆する。 射手はドクオへと狙いを澄まし、矢を引き絞る。 迫り来る大矢を前に、ドクオは体を捻る。 直前までドクオの右肩があった場所を大矢が通り過ぎる。 だが、射手の攻撃はそれで終わらない。 ドクオの目の前には、既に短剣を振るう射手の姿があった。 射手は矢を放った直後、その矢を追う様に一息で距離を詰め、ドクオへと斬り込んでいた。 《追い斬り》ーードクオが、内心でそう呼んでいる攻撃方法だ。 ドクオは投擲物を追うが、射手は矢を追う。 先程も思ったが、彼女は弓の使い手としてだけでなく、短剣の使い手としてもかなりのものだ。 ドクオも今、左手に短剣を握ってはいるが、これは投擲の代わりであり、短剣自体の練度は、向こうには到底、及ばないだろう。 それは、向こうが剣技を使って来た事からも明らかだ。 射手と言う表現は正しく無いかも知れない。 あらゆる状況に対応し、獲物を追い詰める様は、まさに《狩人》そのものだ。 金髪碧眼の麗しい狩人ーーその短剣が迫り来る。 (;'A`)「ーーッつぅ!!」 ドクオは狩人の短剣を左手の短剣で受け止める。 そして、これまでの疾走の勢いを乗せ、短剣を押し込みつつ、直剣で斬り掛かる。 (#'A`)「ーーぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!!」 狩人の肩口へと、直剣を振り下ろす。 向こうは、防御する手立ては無い。 右手の短剣は封じられ、精々、左手の大弓で防ぐ程度。 ーーそう、思っていた。 瞬間、衝撃。 (;゚A゚)「がはッ…」 腹部への痛打を受け、ドクオは体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。 ξ ゚⊿゚)ξ「一体いつからーー?」 腹部への衝撃の正体、それはーー。 (;゚A゚)「なん…だと…!?」 脚だった。 くるぶしの上程度の長さの革のブーツに、黒のニーソックス、ショートパンツと言う恰好のため、かなり動き易さ重視の装備だ。 上半身も、革のコートを身につけては居るが、その中は胸当てなどの装甲が一切無い、ノースリーブのシャツ一枚。 腰のショートパンツを留めるベルトとは別に、シャツの上から腹部に黒のベルトを巻いており、それには複数のナイフホルダーが付いている。 これまでは、大弓や姿勢の関係で、コートの上のマントが覆い隠し、細部まで装備を確認することが出来なかったが、脚を前に突き出した姿勢のお蔭でコートが背面へと流れ、その中が顕になった。 大弓に短剣、それに加えて体術と、今回は使わないだろうが投擲まで。 二つでも驚異的だと言うのに、四つの攻撃手段を有している。 ただ多いだけで無く、その一つ一つの練度も高まっているだろう。 ドクオが見たのは三つだけだが、その様子からドクオは、この狩人はとてもストイックな性格をしているだろうと予測した。 それならば、まだ見ていない投擲も、ドクオ自身と同等かそれ以上と思うべきだろう。 ドクオは、口角が上がるのを我慢出来なかった。 (;'A`)(楽しい…楽し過ぎる…!!) 吹き飛ばされたドクオは受け身を取り、体勢を立て直す。 ドクオの視線の先では既に、狩人は大弓で射る直前に入っている。 ドクオはすぐさま地面を蹴り、距離を詰めていく。 狩人が大矢を射る。 ドクオは空中で身を捻り、回避する。 そこへ、先程同様、追い斬りで狩人が迫る。 今度は、その斬撃を直剣で弾き返す。 狩人は弾かれた勢いを利用して身を捻り、回し蹴りを繰り出す。 ドクオは短剣の鍔部分で蹴りを往なす。 空かさず直剣で斬り返すが、狩人は後方宙返りでドクオの斬撃を躱し、跳躍する。 その状態から、矢を放つ。 ドクオは咄嗟に躱すが、続け様に狩人は、大弓の射った反動で滞空時間が伸び、二連射、三連射、と見舞う。 それをドクオは最低限の動きで躱して行く。 射撃の反動で滞空時間が伸びると言っても、ずっと滞空し続けられる訳もなく。 狩人が地上に降り立つ。 そのタイミングを見計らっていたドクオがそこへ斬り込む。 狩人は逆手に持った右手の短剣でドクオの直剣を弾くと、左脚を軸にして立ち、右脚を突き出すように蹴りを放つ。 (;'A`)「ーーぉおッ!!」 ドクオは咄嗟に身を捻りつつ、短剣で受け流す。 ξ ゚⊿゚)ξ「!!」 蹴りを受け流され、狩人が隙を晒す。 一方、ドクオは既に、直剣を引き絞るように構えている。 (#'A`)「らあぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああッ!!!」 直剣を突き出す。 その切っ先が狩人へと向かう。 ξ ⊿ )ξ「ーー」 狩人は片足立ちで回避不能。 ξ ゚⊿゚)ξ「なるほどね」 そう思っていた。 狩人は素早く身を捻り、左右の脚を入れ替えると、右脚を軸にして、左脚を蹴り上げた。 (;'A`)「なっ…!?」 狩人の蹴りによってドクオの直剣の切っ先が蹴り上げられ、弾き上げられる。 その直後に、無数の礫がドクオを打つ。 体勢が崩れた所への追撃で、ドクオの隙が更に大きくなる。 それだけではない。 (;゚A゚)「ッ!?」 突然、ドクオは糸が切れた人形のように崩れ落ち、膝を突く。 (;'A`)「なん…で…!?」 そこに、金髪の狩人が歩み寄る。 ξ ゚⊿゚)ξ「スタミナ切れね。ついでに体幹も崩れてる。戦いに集中する余り、スタミナ管理が疎かになってたわよ?」 確かに、今の息切れと全身を包む疲労感はスタミナ切れのそれだろう。 (;'A`)「そう…か…じゃあ、俺の負けだな…」 俺は潔く敗北を認める。 不甲斐ない結果だが、それでも、いや、だからこそ、今の自身の全てを出し切ることが出来た。 元々、勝敗には拘っていない。 結果には納得している。 ただ、もっと戦いたかった、良いところで終わってしまったと言う後悔は感じている。 すると、金髪のエルフは、ドクオに手を差し伸べて来た。 ξ*゚⊿゚)ξ「ま、まぁ?私の勝ちだけど、良い戦いだったと思うわよ?私もそれなりに楽しめたし?だから、そんな落ち込まなくても良いんじゃない?」 その様子は、戦う前と比べ、かなり険しさが取れたものだった。 寧ろ、若干の照れも合わさり、微笑ましく思える。 ('A`)「あぁ、あんたも凄かったぜ」 そう言って、ドクオはエルフの手を取る。 しかし、一向に引っ張ってくれない。 ξ* ⊿ )ξ「ーーツン…」 顔を俯かせ、消え入りそうな声で小さく溢す。 ('A`)「え?」 何のことかとドクオは首を傾げる。 ξ*゚⊿゚)ξ「わ、私の名前!!あんたじゃなくて、ツン!!」 エルフーーツンは、顔を真っ赤に染め上げ、絞り出すように声を上げる。 (;'A`)「お、おう…俺、ドクオ…宜しくな、ツン」 するとツンは耳まで真っ赤にしてドクオに詰め寄る。 ξ*//⊿/)ξ「は、はぁあ!!?あんたの名前なんて聞いてないんだけど!?宜しくするつもりも無いんだけど!!!?」 その慌てっぷりは、先程までの落ち着きようが嘘のようだった。
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