第八章『休暇』

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ギルドの集会所から出たドクオは、エクストの手掛かりを探るべく、周辺の捜索を行っていた。 その中、ドクオの思考の片隅では、ブーンとツンのやり取りの謎について考えていた。 状況と情報を整理する。 ツンが受付嬢と何か揉めていた。 ツンは冒険者ーーそれも、駆け出しとは程遠い、熟達の冒険者のハズだ。 彼女が何故、この村に滞在しているのかは分からないが、冒険者ギルドに居たのは依頼を受ける為だろう。 冒険者が依頼を受けようとして、受付嬢と揉めるのは何故か? 報酬? ツンはそこまで金に意地汚い感じはしなかった。 依頼が無かった? それならばツンも大人しく引き下がるだろう。 そこから考えられるのはーー。 “依頼はあるのに、受注出来なかった”ーー? 次にブーンの発言だ。 ブーンは揉めているところに割り込み、拒絶された。 その時に放った台詞。 ( ^ω^)『いやいやいやwww関係無くはないかな!!www俺らも冒険者登録して、此処で依頼受けようと思ってるからさwwwあなたの問題が解決しないと俺らも冒険者生命危うし!wwwなんですわwww』 キーワードっぽいのは、“冒険者登録して、依頼を受けようとするブーン達”、“ツンと受付嬢が揉めている原因を解決しなければ、ブーン達にも不都合が及ぶ”と言うところだろう。 もし、先の推測が当たらずも遠からずだった場合、冒険者登録したところで、俺たちもツンのように依頼を受けることが出来なかった、と言う事になる。 取り敢えず、この方向で推理を進めて行く。 そして、ブーンの発言に対して、ツンの発言。 ξ ゚⊿゚)ξ『……そう。でも、どの道、冒険者登録もしていない駆け出し冒険者が口出しするような事じゃないわ。身の程を弁えなさい』 駆け出し冒険者が身の程を弁えろと言われる理由として、真っ先に思い付くのはやはり、荒事ーーそれも魔物関連だろう。 そして、ギルドの依頼ーークエストもイメージするのは魔物討伐。 で、あれば、魔物関連のイザコザ。 そして、この村のギルドに届く依頼は、恐らく、殆どはこの村周辺のフィールドを対象としたものの筈だ。 そこから考え得るのは、村周辺のフィールドの魔物関連のイザコザーー異変。 異変と言えば、武具屋のクックルが言っていた、山での獣や魔物の変死体に纏わるものがある。 異変では、何が起きるか予測不能。 よって、大事を取って依頼受注不可となった。 纏めると、ブーンはツンと受付嬢が揉めているのを見て、山での異変のせいで依頼が受けられなくなったツンが、どうにか依頼を受けようとしているのだと推察し、声を掛けた。 そう言う事になるだろう。 だが、そうなると疑問も浮かぶ。 そんな分かりやすい揉め事は、ギルドから依頼を出して、冒険者に調査させれば良いのではないか、と。 あの場には、ツンだけでなく、多くの冒険者が居た。 全員とは言わずとも、希望者を集い、調査させれば、異変の原因を掴む、或いは解決できるかもしれない。 事はそう単純では無いのか。 そもそも、ここまでの推理が間違っている可能性もある。 いつの間にか、思考が捜索よりも謎解きに集中してしまっていた。 ドクオはイカンイカンと思考を切り替え、諸々の謎については、一旦、蓋をして封じることにした。 そして、捜索に全神経を集中させる。 ドクオが今、捜索しているのは、村の外周だ。 ツドゥス村も他の村同様、魔物の襲撃対策として、周囲を丸太の壁で囲っている。 上部に関しても、容易く登って侵入されないように槍のように尖らせ、有刺鉄線を張り巡らせている。 外周を一周したところで、村の周囲を見渡す。 なだらかな平原では無く、丘が散見される草原は、遠くまで見渡すことが出来ない。 だが、その奥に深い樹々に覆われたそこそこ高い山を臨むことが出来た。 クックルの言っていた山とはあの山の事だろうか。 もし、あの中に、迷い込んでしまっていたら、捜索は至難だろう。 加えて、謎の異変が起こっている。 もしも、あそこへ行ってしまっていたらーー。 悪い方向に釣られる思考を振り払うように首を振り、否定する。 考えるよりも今は体を動かせ。 周囲をつぶさに観察しろ。 自身に言い聞かせ、捜索を再開する。 村を出る時は表だったからと、村の中に戻る時は裏から入って、少しでも手掛かりを見付ける可能性を高めようとする。 表側の門は、周囲に障害物が無く、見晴らしも日当たりも良い明るい場所だった。 しかし、裏側の門は、内側に大きな木が生え、日を遮り、影を落としている。 暗いから、見逃さないように集中して捜索しよう。 そう自分に言い聞かせ、裏手の門を潜り、村の中に入る。 表側は、入ってすぐに露店があり、賑わっていたが、裏側の門周辺は、離れた場所に武具屋が見えるものの、それくらいで静寂に包まれている。 門衛は居るが、たった一人だ。 ワナイス村と違って、こちらは多くの冒険者が滞在したり、訪れる。 そう言った観点から、多少、警備がおざなりになっているのかもしれない。 もし、エクストがこちらから外に出た場合は、深夜早朝であれば、誰も気付きそうにない、そう思った。 何か手掛かりがあるかもしれない。 そう思い、周辺を探る。 探ろうとした、その時だった。 ふと、声がドクオの耳に届いた。 聞こえた方へ視線を向ける。 門のすぐ側の大樹。 その陰。 ドクオからは大樹を挟んだ向こう側から、微かに聞こえる。 まるで、他の誰かに知られないように抑えた声量だ。 ドクオは慎重に歩きながら気配を殺し、大樹へと近付いた。 大樹に背を預け、その奥を覗き込む。 ドクオの目に入ったのは四人の人物。 その内の三人は、ドクオには見覚えがあった。 武具屋の近くですれ違った、女性と男性二人の組み合わせの冒険者達だ。 もう一人は、少なくともドクオには見覚えが無い。 ツンのようにフード付きの丈の長いマントに身を包んだ人物だ。 背丈は、三人よりもやや低い。 もっと詳しく見てみたいが、手前に三人組がいる為、奥のマントの人物の姿が遮られている。 構図としては、マントの人物を三人組が追い詰めているような雰囲気だ。 ドクオは何やら不穏な空気を感じ、また行方不明のエクストの手掛かり若しくは、ロングマントの人物がエクストである可能性を考慮し、様子を窺うことにした。
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