第八章『休暇』

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倒れていた女の方に振り向けば、そこには確かに女が生きていて、起き上がった姿があった。 本人も死んだと思ったらしく、困惑した表情を浮かべていた。 「こんな真っ昼間に、三人も目撃者がいる状況で殺す訳ないじゃーん。ギルドだってあるんだからさぁ。これでもギルド所属の冒険者なんだよ?でもーー」 すると、少女は起き上がっている女の方に近付き、顔を寄せる。 「さっき言った言葉に嘘は無い。わたしは、わたしの命を脅かす相手には容赦はしない」 囁くように、淡々と、静かに、言い放つ。 少女は女から顔を離し、ドクオの方を見る。 「今回は、状況と、この人に免じて許してあげる。でも、もしまた、逆恨みでわたしを襲って来たら、その時はーー言わなくても分かるよね?」 少女の言葉に、女は恐怖で涙ぐみながら激しく首を縦に振る。 「分かったらさっさと消えてくれる?気が変わってあなたを殺しちゃうかもよ?」 無邪気に物騒な脅しを受けた女は、弾かれたように立ち上がり、その場から逃げ出すように背を向けて離れていった。 その後を男二人も追う。 「……人は、自分一人だけで生きている訳じゃない」 男たちの姿が見えなくなった頃、少女は小さく呟いた。 「誰かの想いや命、祈りを継いで、生きているんだ。だからわたしは、誰かに殺されるくらいなら、相手を殺してでも生き延びる。それが、託してくれた人へのせめてもの償い。唯一出来る、恩返しだから」 それは、独り言だったのか、それとも、ドクオに対する言葉だったのか。 ドクオは、彼女もまた、何かを背負って冒険者として生きているのだと感じた。 そして、それは過去に因果があるものであるとも。 少女はドクオに向き直る。 相変わらず、ロングマントのフードで表情を窺うことは出来ない。 「あなたも、早く離れた方が良いんじゃない?わたしみたいな危険人物が近くに居て、気が気じゃないでしょ?」 明らかな自虐。 だからこそ、ドクオは少女の言葉を鵜呑みには出来なかった。 放って置けなかった、とも言う。 ('A`)「別に、俺は君を殺そうとしている訳じゃないから大丈夫だろ?それに君も、別に誰彼構わず殺すような殺人鬼じゃないだろ?」 相手は先程出会ったばかりの初対面、それに加えて異性だ。 それにも関わらず、ドクオは平然と会話出来ていた。 ツンの時もそうだが、ドクオは日常の中では他者との会話が出来ないが、非日常の中であれば誰に対しても会話出来るようだった。 「そうだけど、別にわたしに用がある訳じゃないでしょ?それならお互い、関わらない方が身の為だよ」 だが、少女はこれ以上、ドクオに関わる気はないようで、背を向ける。 突き放すような言動。 この短時間ではあるが、ドクオは彼女が優しい心根の持ち主である事を感じていた。 だが、その優しさを覆い隠すように、彼女が背負う因果が、彼女の心無い言動を行わせているように思えた。 (;'A`)「ちょっ、ちょっと待った!君に幾つか聞きたいことがある!」 ドクオが苦し紛れに何とか捻り出した言葉に、少女が肩越しに振り向く。 「聞きたいこと?何?」 何とか、彼女の興味を引く事が出来たようだ。 (;'A`)「あー、えーと、君のその力って風の魔法だろ?魔法使いなのか?それにしては、杖も触媒も無さそうだけど…」 少女はわざとらしく溜め息を吐き、ドクオに向き直る。 「今さっき出会ったばかりのあなたに、自分の能力を明かしたくはないかな。って言うか、それ、冒険者同士じゃマナー違反だよ。相手の力量ならまだしも、能力を詮索するなんて、相手次第じゃ喧嘩になるよ」 ドクオは迂闊な自分を恥じた。 ドクオ自身はそれほど気にはしない。 だが、この世界で、自身の能力ーーひいては切り札を明かすなど、不用心を通り越して自殺行為だ。 相手によっては、不快感を超えて憤りを覚える者もいるだろう。 (;'A`)「あっ、それは悪かった。以後、気を付けるよ」 気付かされ、反省し、肝に銘じる。 「……あなたも冒険者なの?」 すると、ドクオが次の質問を投げ掛けるより早く、少女の方から質問が飛んで来る。 (;'A`)「え?あ、ああ、そうだな。ギルドに登録したのはついさっきだし、冒険者として冒険を始めたのもつい最近だけど」 「不用意に相手に身の上を語らない。そう言うのは、あまり自分から言わない方が良いよ。舐められるから」 また失言、失敗してしまったらしい。 (;'A`)「あ、うん。気を付けるよ。それと、俺からも一個、質問良いかな?」 ドクオは当初の目的に立ち返る。 当初の目的とは、エクストの捜索及び手掛かりの入手だ。 「わたしの事情を詮索するものじゃなければ答えるけど」 三度目の失言をしないように、慎重に言葉を選び、質問を組み立てる。 ('A`)「この辺、と言うか村の周りで、男の子を見てないか?そうじゃなくても、何か気になった事とか」 ドクオの質問に、少女は暫し考え込む。 「うーん、特にそう言ったものは無いかな。力になれなくてごめんなさい」 ダメで元々だった為、これは仕方ない。 ('A`)「いや、謝る必要はないよ。答えてくれてありがとう」 会話が途切れる。 気まずい沈黙が流れる。 「まだ何かある?何もなければ、わたしはもう行くけど」 少女は半身だけ横に向け、立ち去ろうとする。 (;'A`)「あっ、その、えーと!」 他に何か聞けるものは無いか。 だが、先程の彼女からの注意に意識を持っていかれ、思い浮かばない。 「……もしかして、わたしをナンパしようとしてる?」 その声はとても冷ややかで、鋭いものだった。 (;'A`)「えっ!?いや、違う!そんなつもりじゃないって!」 思わぬ方向からの疑いを掛けられ、動揺する。 「でも、こんなに必死に引き止められるとなぁ…。怪しいなぁ…」 例え、顔も表情も見れずとも分かる。 間違い無く、怪訝な視線を向けられている。 (;'A`)「俺はただ、自虐して、他人を突き放すように独りになろうとする君が放って置けなくて!」 自分の無実を証明しようと、必死の思いで内心を吐露する。 この際、恥も何も無い。 「そんなこと言って、着いて行ったら暗がりに連れて行ってわたしに乱暴するんでしょ!わたし知ってるんだからね!この変態!!」 気のせいだろうか? 何処か楽しんでいるように聞こえる。 弄ばれているように感じる。 (;゚A゚)「誤解な上に、濡れ衣だぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
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