第八章『休暇』

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閑話休題。 つい先程出会ったばかりで、しつこく声を掛けられれば、拒絶してしまうのも無理は無い。 ましてや、異性ともなれば尚更だ。 ('A`)「……分かったよ。無理なお節介はただの迷惑だもんな」 ドクオは大人しく身を引く事にした。 「分かってくれたみたいで良かった。あなた、悪い人では無さそうだけど、お互いの領分があるからね。お互い、自分の為すべき事の為に励もう!」 全く以って、その通りだと言える。 ドクオが今、エクストを探し出さなければいけないように、彼女もまた、やらなければいけない事がある筈だ。 それをドクオ自身のエゴで妨げてしまっていた。 ('A`)「ああ、そうだな。お互い、頑張ろう」 ドクオにはドクオの、彼女には彼女の道がある。 進んで行けば、また何かをきっかけに、その道が交わるかもしれない。 その時が来るまで、ただ自分の道を邁進して生きていく。 少女が背を向ける。 その直前に、僅かにフード隙間から少女の口元が見えた。 否、偶然見えたのでは無く、彼女が見せてくれたのだろう。 少女の口元は、笑っていた。 大きく口角が上がり、白い歯を見せる、朗らかな笑顔だった。 少女はそれから、振り返ること無く進んで行く。 ドクオはその背を、ただ眺めていた。 ーー眺めていた、その時だった。 突然、少女が前のめりに倒れた。 (;'A`)「!?」 ドクオは驚き、戸惑いながらも、素早く駆け寄る。 (;'A`)「おい!大丈夫か!?」 だが、返事はない。 しかし、僅かに体が動いており、生きてはいるようだ。 (;'A`)「悪い!起こすぞ!」 聞こえているかは不明だが、謝りを入れ、体を起き上がらせる。 肩を掴んで抱き抱える。 呼吸、脈拍共に異常は無さそうだ。 それなら何故、彼女は倒れたのか。 困惑しつつも、思考を巡らせる。 その時だった。 グウゥゥゥゥ〜〜〜〜。 異音、と言うか、腹の虫の音が鳴り響く。 勿論、ドクオではない。 「……実は三日くらい前から殆んど食べてなくて…お腹空いててぇ…」 なるほど、空腹による転倒だったと言う訳だ。 とは言え、空腹も侮る事は出来ない。 空腹を超え、飢餓に陥れば、命の危険も有り得る。 (;'A`)「そりゃ大変だな。もう少し村の中に行けば、屋台があるんだが、歩けそうか?」 もう少し、とは言っても、何も問題の無いドクオからの感覚であり、歩くのもままならない少女からしてみれば、遥か遠くに感じることだろう。 「……歩ける、と言いたいところだけど、正直、立ってるのがやっとだと思う…」 格好つけて立ち去ろうとした手前、素直に『助けてくれ』とは言い難いだろう。 (;'A`)「あー、それじゃあ、仕方ないか。ちょっと失礼」 ドクオは少女の膝裏に腕を回し、持ち上げるように立ち上がる。 膝裏と言っても、マントの布越しである為、素足を晒している少女の素肌に触れる事は無い。 少女は、くるぶし上までの黒革のブーツに、ミニスカートのようなショートパンツ、所謂キュロットスカートを穿いている。 太もも部分には、様々な道具が入っているだろうレッグホルダーがベルトと共に取り付けられている。 持ち上げた少女は、ドクオよりも頭一つ分、背が低く、細身である見た目相応に軽い。 ドクオはいわゆる、お姫様抱っこ、をしていた。 これには流石の少女も狼狽える。 「ちょっ、ちょっと!?さ、流石にこれはダメ!無理!」 (;'A`)「いや、分かってるけど、こっちの方が個人的に気が楽と言うか……」 ドクオ自身、確かに気恥ずかしいものの、接地面積的に、お姫様抱っこを取った。 候補は他に二つ。 一つは肩に抱える、いわゆるお米様抱っこ。 こちらは、三つの中で最も良いと思われたが、少女の腹部を圧迫してしまう事を考慮し、除外。 そして、もう一つは背中に背負う、おんぶだが、こちらは接地面積的にドクオが気恥ずかしい為、自然と候補から除外していた。 「こういうのは自分で言うものじゃないと思うけど、おんぶで良いでしょ!」 運んで貰う手前、我儘を言いたく無いと言う気持ちもあるが、それでも我慢出来ないものなのだろう。 このまま口論していても平行線だろう。 ドクオは自分が折れて、少女の案を受け入れることにした。 (;'A`)「あーもう分かった。分かったよ」 少女を一旦下ろし、背を向ける。 ('A`)(俺はただ運ぶだけ。この女の子を食べ物がある場所に運ぶだけ。そう、運ぶだけ) すぐに、少女が後ろから腕を回して、ドクオの前で組む。 遅れて、少女が体重を預けて来る。 同時に、密着する感触。 本来であれば、そんなに密着するようなこともないと思うが、彼女は今、空腹で殆んど力が入らない状態だ。 故に、ドクオの背中から肩にかけて、完全に密着する形で身体を預ける。 それと一緒に、少女の息遣い、香りがドクオに殺到する。 加えて、少女の脚を両手で抱えることで、素肌の感触が手に伝わる。 ('A`)(俺は無機物俺は無機物俺は無機物俺は無機物俺は無機物俺は無機物俺は無機物) ドクオは極力、少女から伝わる情報を意識しないようにしながら立ち上がる。 立ち上がる時も、迅速且つ静かに、だ。 進む際も、極力、揺らすべからず。 それでいて、速やかに目的地に到達しなければならない。 ドクオはそれだけに集中し、それ以外の思考や感情を淘汰する。 ドクオは無機物の運び手となり、少女を村の中心部へと連れて行く為、駆け出すのだった。 ーーーーーー ーーーー ーー ー 冒険者ギルド、集会所。 ショボンは粗方の冒険者に声を掛け、情報を集め終えていた。 誰も彼も、初めは当たりが強いが、酒を奢り、話し合う中で、打ち解けることが出来る程度には話が分かる連中だった。 加えてーー。 (´・ω・`)(かなり有益な情報が得られたな。後は、これを元に、二人と合流して話し合うだけ、なんだけど…) 情報収集の最中、と言うか初めの頃、二人が何やら他の冒険者と揉めて、集会所の奥の方に消えて行くのを見た。 ショボンの記憶では、集会所の奥は訓練所だったと記憶している。 ショボンの読みでは、相手の冒険者に力を示すように強要されたのではないかと思っている。 ドクオが戻って来たのは確認している。 だが、ブーンが戻って来たのをショボンは見ていない。 見逃したとも考えられない。 そして、相手の冒険者も未だ出て来ていない筈だ。 三人で入ってから、ドクオが出て来るまでの時間が二十五分程度。 現在は、三人で入ってから四十分が経過している。 ドクオと同じ程度掛かると考えれば、まだ出て来るような時間ではない。 慌てたり焦る必要も無いが、予定が狂うと非常に困る。 とは言え、ショボンがどうこうする訳にもいかない。 この先、冒険者として生きていく為にも、ブーン自身が自分の力で乗り越えなくてはならない。 (´・ω・`)(仕方ない。周辺を回りながらドクオと合流する事にしよう) ショボンはギルドの集会所を出て、村へと移動した。
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