第八章『休暇』

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村の中を宿屋に向かって進んでいく。 道中でも、周りを眺めてエクストやその痕跡を探す。 しかし、特に何か見付かる事も無く、宿屋に到着する。 宿屋の前は無人だった。 時間的には、もうドクオが居てもおかしくない。 ギリギリまで捜索を粘っているのだろう。 ブーンもどうせまだ来ないだろう。 そう考え、ショボンもせめて周辺を捜索してみようと思い付く。 周囲には露店の屋台などもあるが、そこへの聞き込みは、二人と合流して昼食を購入する際で良いだろう。 宿屋の周辺の捜索という事で、ショボンは宿屋の裏手に向かって歩き出す。 宿屋の裏手は、雑木林になっていた。 そこまで規模がある訳ではないが、子供一人隠れていてもおかしくは無い程度には深い。 恐らく裏庭と思われ、人の手が入っているようで、人が歩くために道が作られている。 ショボンはしゃがみ込み、その道を注視する。 雑草が取り除かれ、土が剥き出しの歩道。 そこに、足跡のような僅かな窪みを見付ける。 意識しなければ見落としてしまうような、微かなものだ。 大きさはショボンの足のサイズより一回り小さい。 推定、子供のものと思われる。 それが、林の奥の方へと続いている。 ショボンはその足跡を追い、林の奥へと進んで行く。 雑木林の中は、枝葉に日の光が遮られているが、僅かな木漏れ日が程良く差し込み、林の中を照らしていた。 整備されていない道の外側は、植物が生い茂っているが、ある程度、手は入っているようで生え放題と言う様子ではない。 足跡はまだ続いている。 土とは言え、固く固まっている為、常に足跡が残っている訳では無く、途切れ途切れではあるが、何とか辿ることが出来ている。 しかし、それは突然、終わりを迎える。 土が剥き出しの歩道が途切れてしまった。 顔を上げれば、雑草が生い茂る地面を僅かに挟み、その先に丸太の壁がある。 村の周囲を囲う防壁の一部だ。 土の歩道はここまでのようだ。 ショボンは周囲を観察する。 そして見付ける。 踏まれた植物の形跡。 足跡の痕跡は、まだ続いている。 寧ろ、雑草に跡が残り易い為、土の地面より良いまである。 とは言え、整備されていない道は、全てが植物に覆われている訳ではなく、大小様々な石も散乱している。 その場所には、植物が生えていない為、判別不能。 そう思われるが、ショボンは石の表面に残った植物の組織の痕跡を見落とさない。 植物を踏んだ事で靴の裏にその組織が付着し、石を踏んだ際にそれが石の表面に残るのだ。 そのような僅かな痕跡も見落とさないようにしながら、辿って行く。 すると、奥の方の茂みが揺れ、その音がショボンの耳に届く。 十中八九、痕跡の主だろう。 ショボンに気付いて逃げようとしたのか。 捜索を依頼されたエクスト本人かは定かではない。 だが、そうで無くとも、こんな人目の付かない場所に隠れ、近付いた人間から逃げるような行動を取る者だ。 何かしらの関連性があるかもしれない。 ショボンは極力、息を殺し、足音を出さないように、気配を抑えながら、再び動き出す。 ドクオのように、気配を隠蔽する技能を有している訳ではないが、それが気配を隠蔽することが不可能と言うことにはならない。 技能はあくまでも、行動の補助であり、成功率を上げてくれるようなものだ。 隠蔽の技能を持っていなくとも、行使は可能であり、工夫次第では、その成功率も上がる。 例えば、しゃがむ。 単純だが、これだけでも、かなりの気配隠蔽効果が見込める。 特にこのような草木が生い茂り、日の光が当たり難い暗い場所では、草木に姿が紛れ、相手も視認性が悪くなる。 そして、しゃがむことで、足音を極力、抑えることが出来るのだ。 ショボンはしゃがんだ状態で、痕跡を辿りつつ、先程の音の聞こえた方向も意識する。 痕跡と音の位置は一直線に結ばれている。 つまり、真っ直ぐ進めば、音の主に辿り着く。 ショボンは静かに、林の中を進んでいく。 幸いにも、今日はそよ風が吹いており、枝葉が擦れる音が、僅かな草木が擦れる音を掻き消してくれる。 先程の音は、それでも聞こえる程の大きなものだった。 進むこと数十秒、ショボンは前方に人影を確認する。 その人影は、ショボンと同じく静かに動いているようだった。 ショボンは静かに深呼吸して、意識を静める。 そして、イメージする。 周囲の木々と同化する。 そよ風に木々が揺れる。 それに合わせて進む。 そよ風が止めば、ショボンも止まる。 それなのにも関わらず、人影とショボンの距離は不思議と縮まって行く。 向こうは、どうやらショボンが近付いて来ている事に気付いていない。 そして、ショボンは木に化け、進むことに意識を集中している間に、人影の正体、その人物の背後を取っていた。 ドクオは目の前の人物を目に捉えた瞬間、羽交締めにする。 「うわぁッ!?な、何!?」 その人物は驚きの声を上げ、ショボンの腕の中で、振り解こうと暴れる。 「誰!?放せよ!!このっ!!」 だが、ショボンのホールドは非常に固く、無駄に終わる。 (´・ω・`)「君がエクストだな?」 ショボンの言葉に、腕の中の人物が反応を見せる。 まだ、顔は見えないが、腰ほどまで伸びる長髪と比較的高めの声で、少女のようにも感じる。 いわゆる、男の娘だった。 「ッ…な、何で俺の名前…!!」 しかも、俺っ娘である。 (´・ω・`)「仕事で家出息子を探してくれと頼まれてな。思い当たる節があるんじゃ無いか?」 ショボンが言うと、男の娘ーーエクストはバツが悪そうに黙り込む。 (´・ω・`)「そう言う訳だから、このまま大人しく連行されて貰おうか」 「このまま!?」 流石にエクストも意外だったらしく、素っ頓狂な声を上げる。 (´・ω・`)「このまま。逃げられてまたかくれんぼになったら敵わんのでな」 ショボンは冷静に淡々と述べる。 「ま、待ってくれ!あ、あんた、冒険者なんだろ!?」 (´・ω・`)「はい、冒険者です」 ショボンとしては、耳も貸さず、そのまま連れて行こうとも思ったが、取り敢えず聞くだけ聞くことにした。 「俺はまだ、帰る訳には行かない…。冒険者であるあんたに頼みがあるんだ…!」 そう言うエクストの声には真に迫るものがあった。 ショボンはエクストを地面に下ろし、促す。 (´・ω・`)「……言ってみろ」 エクストは、自身が抱える事情をショボンに話すのだった。
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