第十九章『“風の王”飛竜ヴィエンティアラ』

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(#^ω^)「尻尾ッ!!置いてけぇぇぇぇえええええええええッ!!!」 大剣の重厚な刀身による斬撃に加え、ドラゴンバイト特有の衝撃波が重なり、飛竜の鱗を弾き飛ばし、甲殻を叩き割る。 余りある破壊の挟撃は、より内部へと潜り込み、皮膚を破り、強靭な筋肉を裂き、堅牢な骨にまで届く。 骨をも断ち切り、飛竜の尻尾が斬り離される。 その反動で、飛竜が仰け反るように起き上がり、ブーンから逃れるように離れる。 尾の三分の一が切り離された飛竜は、その元凶たるブーン達を睨み付ける。 その全身は、至る所の鱗が剥げ、甲殻が割れ、角も折れ、翼も無残であり、最早、満身創痍と言った風体であった。 だが、飛竜の双眸には、決して消える事のない憤怒の炎が渦巻いていた。 そして、飛竜の口から火の粉が漏れる。 火の粉は次第に大きく広がり、炎となり、猛火の息吹となる。 猛火の息吹は、真っ直ぐブーン達に向かって放射状に放たれた。 大地を焼き焦がし、飛竜の猛火が迫る。 ショボンが前に出て大盾で防ぎ、他はその範囲から逃れる。 だが、飛竜の息吹は、それで終わることはなかった。 吐き出す火炎に変化が生じる。 猛る炎は、徐々に、その色を変えていった。 橙から赤、赤から紫、紫から青、そして、限りなく白に近い青へと、炎が白熱する。 それだけではない。 炎の色が変わるに連れて、炎が収束・圧縮されていく。 放射状に広範囲に広がっていた炎が、次第に範囲を狭め、やがて、一条(ひとすじ)の熱線となる。 青白い熱線を勢いのままに真正面に放ち、そのまま真上へと振り上げる。 熱線は直線上の地面を森を灼き融かし、燃え上がらせる。 続けて、首を振るって真横に薙ぎ払う。 熱線は真一文字に地面を切り裂き、往復して更に奥の森までをも焼き払う。 熱線は次第に出力が落ち、温度と状態を戻し、炎となる。 炎の息吹を黒煙として吐き出し終えた飛竜の眼前には、熱線で切り裂かれて融解し、その余波だけで焼け焦げた焦土と、燃え上がり炎に包まれた森が広がっていた。 そして、その周囲には、地面に倒れるショボン達の姿が映っていた。 (;・∀・)(ーーとんでもねぇな…) モララーは焼け付くような空気の中、燻る地面の上で地に伏せて息を殺していた。 モララーは自身が生き延びることに精一杯で、飛竜の熱線を目にした瞬間、咄嗟に伏せる事しか出来なかった。 伏せた事で飛竜の熱線は直撃せず、モララーの前方と後方の地面を切り裂き、灼き融かした。 熱線がモララーの上を通過する際に、僅かにその熱に炙られたが、直撃するよりずっとマシだ。 モララーは周囲に意識を向ける。 周囲は熱線の余波だけで炎上し、炎と陽炎が揺らめいている。 他の仲間たちの安否は分からない。 希望を持ちたい気持ちはあるが、モララーは楽観主義ではない。 万が一を心に決め、これからの行動をどうするかについて思案する。 即ち、飛竜との戦闘を続行するのか、それとも、このまま息を殺して潜み、飛竜が何処かへと飛び去ってしまうことを祈るか。 (; ∀ )「…」 モララーの口角が自然と上がる。 (; ∀ )(…随分と、らしくねぇ事を考えるじゃねぇか…) 引き攣った、歪んだ笑みを浮かべ、モララーは動き出す。 モララー自身に自殺願望は無い。 かと言って、仲間の為に、死を覚悟して挑むような高潔な精神も持ち合わせていない。 モララーは、モララーという“冒険者”は、ただただ、“冒険”の中に在りたかった。 (;・∀・)「死ぬなら“冒険”の中でーーそうだろッ!!」 モララーは両手剣を支えに立ち上がる。 熱線の余波に炙られはしたが、ダメージは軽微だ。 問題ない。 動く。 動けるはずだ。 “恐怖”に囚われなければ。 先程の熱線は、モララーに対し、“竜”という圧倒的存在を刻み付けた。 “竜”とは、言わば、“魔”そのもの。 竜に対し、魔法や属性と言った力が効きにくいのは、より原初の存在に近いが故だ。 だが、“効きにくい”だけであって、“効かない”訳では無い。 例えば火属性。 その熱は、竜鱗と竜体には効果が薄いだろう。 だが、熱では無く、“爆発”としてならばどうだろう。 モララーは見ていた。 火を纏ったショボンの炎の斬撃に対し、飛竜が反応したこと。 熱では無く、爆発ーーその衝撃であれば。 ドクオが投擲した竜撃槍。 属性としては火では無いが、その一撃は、ただエンチャントしただけの攻撃とは違い、直撃と同時に爆発し、飛竜の巨体を揺るがした。 爆発、その破壊力と衝撃は、飛竜ーーひいては竜鱗に対しても有効である筈だ。 立ち上がったモララーに、飛竜が気付く。 低い唸り声を上げ、口から黒煙を漏らす。 未だ怒りは冷めやらぬ状態だが、それでも構わずモララーは動く。 左手の指輪を意識し、魔力を込める。 指輪はモララーの魔力に呼応するように紅く輝く。 何処に仲間たちが居るのか、“索敵”の能力を持たないモララーには把握はできないが、仲間たちを巻き込まぬようにモララーは飛竜へと駆ける。 迫るモララーに対し、飛竜が咆える。 大気が震え、それがモララーにまで伝わる。 再び襲い来る恐怖がモララーに殴られたような衝撃を与えるが、モララーは歯を食い縛り、止まりそうになる足を動かす。 飛竜が眼前まで迫り、その威容が正面からモララーを圧倒する。 口元からは黒煙が漏れ出し、その眼は血走りーー。 そこでモララーは気付く。 (#・∀・)「はっ…しっかり効いてんじゃねぇか!!」 飛竜が満身創痍である事に。 モララー達の猛攻のダメージに加え、先の熱線も負担と反動が大きいのだろう。 言わば、今の飛竜はガス欠状態だった。 それでも尚、侮る事は出来ない。 目の前の生物は、魔物の頂点に位置する“竜”の一体なのだから。 モララーは左手に意識を向ける。 まだだ。 まだ、足りない。 もっと魔力を込め、圧縮しなければ。 指輪が放つ紅の光が、より濃く、深くなっていく。 (#・∀・)「ほら!もっと遊ぼうぜ!こんなモンじゃねぇだろ!?“風”の王様よォ!!」 肉薄するモララーへと飛竜が噛み付く。 それをモララーは間一髪で躱し、反撃に両手剣を振り上げ、飛竜の顎を打つ。 両手剣に竜傷力や龍属性のエンチャントはしていないが、鱗や甲殻が剥がれている場所にならば、多少は有効な筈だ。 それをものともせず、飛竜は爪も皮膜も無事な翼を振り上げ、叩き付ける。 モララーはローリングで飛竜の股下へと潜り込み、翼の攻撃をやり過ごすと、起き上がった勢いのまま、両手剣を薙ぎ払い、飛竜の後ろ脚を打つ。 指輪への魔力の充填量は150%と言ったところ。 まだ足りない。 飛竜は、足下のモララーを押し潰そうと、飛び上がる。 そのまま、重力に従い、体重を掛けて踏み潰そうとするが、モララーは既にローリングで尻尾方向に逃れていた。 そして、すかさず両手剣に《滅龍ヤスリ》を掛け、短時間龍属性エンチャントを施す。 飛竜が振り向くと同時に距離を詰め、その頭部へと両手剣を叩き付ける。 赤黒い稲妻が迸り、飛竜の頭部の鱗と甲殻が駆ける。 飛竜が大きく仰け反る。 指輪への魔力充填量は170%。 あと少しだが、この少しが長く、果てしなく思える。 仰け反った飛竜へと、モララーではない人物が追撃する。 (#´゚ω゚`)「おらァッ!!」 ショボンは、両手で握った長剣で飛竜の頭部へと踏み込み斬り上げを見舞う。 その長剣は未だに燻りを宿し、斬撃と同時に爆炎が炸裂する。 飛竜が再び仰け反るーーかと思いきや、飛竜は反った状態からショボンへと噛み付こうとする。 (#´゚ω゚`)「チッ…こいつでも食ってろッ!!」 そう言うとショボンはおもむろに背負った大盾を飛竜の顎門へと叩き付ける。 飛竜の歯牙と共に、大盾の破片が散る。 よく見れば、ショボンの大盾は、まるで溶けた飴のように形が歪んでいた。
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