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その知らせをもたらしたのは、案の定ともいうべき人物だった。
「やっぱり九時まで開けても、お客さんは来ないか」
仕事帰りらしい女性を見送ったあと、小夜は片づけをしながらため息をつく。
久理子がいたとき同様夜八時までと思われているのか、お酒を出さないからか。八時を過ぎるとお客さんは来ない。
少し早めに閉めようか。だがまだ八時をわずかに過ぎたばかりだ。九時まで開いていることを期待したお客さんが来るかもしれない。これから先もこの調子なら、今後のことを再検討しなければならない。
再びため息をつきそうになると、からりとドアが開く。
「いらっしゃいませ」
「まだ大丈夫ですか?」
「えぇ。どうぞ」
顔を出したのは盛だ。先日、尾崎が来た時に会話に出た。盛はそれを知ってか知らずか、ここ数日は咲くまに姿を見せなかった。
久しぶりに見た盛の姿に、小夜はほっと肩の力が抜ける。
「あ、貸し切りだ……っと、すいません」
「いえ、さっき帰られたお客さんが最後かなって思ってたので」
「佐久間さんは八時までだったから、もしかしたらやってないかもって思いましたけど、開いていてよかったです」
にこっと盛が笑ったのにつられ、自然と頬が緩む。
「おなか空いたー。ご飯食べたいんですけど、おすすめは?」
「しょうが焼き、どうですか」
「大好きです」
再びにこっと笑った盛の目尻にしわが寄る。
「お仕事帰りですか」
しょうが焼きの用意をしながら、カウンターに座った盛に話しかける。
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