恋する卵焼き

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「今日は簡単に作れるっていうのがウリだから、出汁巻きは少しレベルが上がったらやろうか。出汁があると肉じゃがやお味噌汁にも使えるからね。ほら、手を動かして」  空気を変えるように手を叩いて、二人に作業を促す。 「卵を巻くところだけ、見本でやってみるからちょっと見ててね」  ボウルに卵を割り、砂糖と塩・胡椒と牛乳を目分量で注ぐ。油を引いたフライパンが温まったことを確認する。 「フライパンが温まったか確認するために菜箸に少し卵液をつけて、フライパンに一本線を引いてみるね」  フライパンの上で漢字の一を書くように菜箸をつけると、じゅっという音がする。 「これが十分に温まったよって音ね。そして卵を少しずつ入れる」 「一気に入れないんですね」 「奥からくるくる巻いていくからね」  小夜にとっては手慣れた作業でも、織衣と磯川にすると新鮮に映るらしい。スペースの都合上、カウンターの向こうに回った二人はくるくると卵巻いていくのを興味深く見ている。  巻いた卵を奥に移し、手前に卵液をそそぎ、火が通るとまたくるくると巻く。それを繰り返して卵焼きの完成だ。 「やってみようか」  小夜が作った卵焼きを皿に移し、フライパンを空けて二人と場所を変わる。  磯川は使い慣れない菜箸で卵をかき混ぜると、油を引いたフライパンに卵液を流していく。一方の織衣は野菜を切ることに立候補したものの、玉ねぎのみじん切りに四苦八苦している。焦げるとか染みるとか騒ぎつつ、初心者二人はぎこちない手つきで料理を作っていく。 「私も卵焼き、クルッてやりたい」  磯川が卵焼きを作るのを横目で見ていた織衣のリクエストに応え、それぞれで卵焼きを作らせる。織衣は焦がすのが怖かったのか早く巻こうとして、固まっていない卵液が向こう側に流れてしまう。逆に磯川は綺麗に巻こうとして、ところどころ焦げ目がついている。
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