恋する卵焼き

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 翌週日曜日、織衣は朝からそわそわしていた。何度も鏡を見ては寝癖がないか確認し、リビングや廊下に埃が落ちていないか確認して歩いていた。それでも約束の十時が近づくと、平静を装ってテレビを見ていたりする。  だがその意識が外を向いているのは明らかで、インターホンが鳴るとさっと立ち上がる。モニターに映るインターホンを押した人物を見ながら返す声も、いつもより高めだ。普段なら小夜が手を離せない時以外、対応しないのが織衣だ。それが今日は率先して対応している。  織衣がスリッパをパタパタさせて玄関に向かったのをみると、織衣が期待していた人物が来たらしい。そんな織衣を微笑ましく思いながら、小夜は冷蔵庫を開けてカウンターの上に必要な材料を並べていく。フライパンやボウルなど必要な道具はもう用意してある。 「おはようございます」 「おはよう」  礼儀正しく、一度立ち止まって挨拶をするのは磯川だ。以前会ったときは制服姿だったが、今日はジーンズにTシャツとラフな格好だ。 「今日はよろしくお願いします」 「こちらこそ。早速始めようか?」  貢が咲くまで土下座した夜、盛の一言で小夜が思いついたのが磯川への料理教室だ。貢が料理をできなくても磯川が最低限、自分が食べる分だけでも作れればいい。お弁当は満子が言っていたように、おいしいものがある。だが勉強に部活にと忙しい高校生はお弁当を作る余裕もないだろう。だから休日に作り置きできるメニューを教えようと考えた。  それを盛と織衣に相談すると、二人から反対の声は上がらなかった。織衣経由で磯川に話を振ると、ぜひという回答があり簡単な料理教室の開催にいたった。  ちなみに今日の参加者は織衣と磯川だ。参加したいと言っていた盛は、仕事で行けなさそうだと連絡をもらった。 「はい、お願いします」 「荷物、適当に置いてね」
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