恋する卵焼き

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 彼は放課後の家庭科室に正々堂々と行くため、授業に出席するようになり、それを見た彼の担任教師に感謝された。だが小夜が何かしたわけではない。変わったのは生徒たちだ。互いに何か特別なことをしたわけではないだろう。ただ一緒に過ごすうちに、相手のことを理解していったのだと思う。  最初は挨拶から、次に「ミシン針の予備、どこにある?」「先生が持ってる」「これ、よかったら食べる?」「おう」なんて会話があったようだ。それが最後には、そろって笑顔で卒業していった。 「何から作るの?」  織衣に問われ、ふっと我に返る。織衣たちはエプロンを身に着け、料理をする準備は万端だ。 「先に手を洗って、ハンバーグ作る人と野菜を切る人に分かれようか」  織衣たちに順番に手を洗わせながら、メニューを説明する。今日のメニューは和風ハンバーグと温野菜サラダ、卵焼きとピーマンのツナ和えにお味噌汁だ。  ハンバーグは小さく作ればミニハンバーグとしてお弁当に入れられる。温野菜サラダで使うブロッコリーはそのまま茹ででお弁当に入れても構わない。そこにミニトマトと卵焼きを入れれば、赤・黄・緑と三食がそろって、見た目も色鮮やかだ。そしてピーマンのツナ和えは、料理初心者でも簡単においしく作れる。お味噌汁の具は豆腐と大根にわかめだ。大根と豆腐を切って、顆粒出汁を入れて味噌を溶く。最後に乾燥わかめを投入すれば完成だ。 「私、切る方やる」 「じゃ、ハンバーグで」  早々に役割分担を決めた織衣と磯川はビニール手袋着用のうえ、それぞれまな板の前とボウルの前に立つ。材料はすべて冷蔵庫から出しており、小夜はカウンターの向かいに回って指南役だ。  織衣に野菜の切り方を指示し、磯川には織衣が玉ねぎのみじん切りを用意するまで卵焼きを作ってもらうことにする。簡単に材料と量を書いた紙をカウンターに置き、小さじ大さじに計量カップも用意してある。
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