恋する卵焼き

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 織衣を注意した小夜はキッチンへ戻る。食事も終盤の二人はデザートが欲しいだろうと、盛が買ってきてくれたプリンを出すことにする。 「またポイント稼いで」 「大人だから」  織衣が盛に絡んでいくのも慣れてしまった。お茶を入れ、冷蔵庫から常備菜を取りだしてレンジで温めている間に梅干しをほぐす。カットしておいた海苔を出し、炊飯器から取り出したまだ温かいご飯を握る。おにぎりの具となるのは種をのぞいた梅干しだ。 「お肉と野菜と、彩りもバランスもいいよね」 「これ、ピーマンとツナのやつ、地味にウマかったです。家帰って作ってみます」 「簡単においしく作れるの教えてもらってよかったね」 「はい。明日はスクランブル……」  磯川の言葉が不自然に切れる。何事かと顔を向ければ、織衣が不機嫌な顔をしている。スクランブルエッグの話になったのは、織衣の卵焼きが理由だ。 「いや、佐久間の卵焼きがなきゃ、スクランブルエッグとかおしゃれなもの、俺に思いつかないから。目玉焼きと卵焼き以外にスクランブルエッグが加わったよ」 「思いがけずね」  卵焼きが思うようにできず、悔しいらしい織衣が呟く。 「卵焼きのかたちだから、ちょっとべちょってしてるって感じるだけで、スクランブルエッグだったら普通にウマいと思うよ」 「……本当に?」 「本当に。正直、巻かなくていいから朝はラクだと思うよ。今、朝はパンだからいいなって思ったし」  盛がそっと立ち上がり、カウンターへやってくる。  十代のやり取りは三十代には面映ゆい。口には出さずとも、小夜と同世代の盛もそう思っているようだ。 「お茶とおにぎりどうぞ。あと、残り物で申し訳ないんですけど」  カウンターにお茶とおにぎり、取り皿を出しながら小声で話す。レンジから取り出した卵焼きと切り干し大根の煮物も取り箸をつけてカウンターに乗せる。
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