思い出ケチャップライス

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思い出ケチャップライス

「クリコサンがなくなった……?」  耳に入って来た意味不明な言葉を復唱する。 クリコサンって何? グリコーゲンとアミノ酸のハイブリッドか。 『ばあちゃんだよな。佐久間久理子さん』  佐久間の名字にピンとくる。佐久間はかつて小夜が名乗っていた姓、離婚した父の姓だ。そして久理子は父方の母の名でもある。 「祖母が……」  久理子さんが亡くなった。祖母が亡くなった。  最後に会ったのは去年の春、およそ一年前だ。あの時は相変わらず元気そうで、食堂を切り盛りしていた。顔色も良かったし、接客業をしているからか年齢より若く見え、認知機能もしっかりしていた。  ――それなのに。  気を抜くと力が抜けそうになる足を踏ん張り、スマホを握る手にも力を入れる。 『わし、久理子さんの代理人弁護士の尾崎太郎な。太郎さんって呼んでくれ。若い女の子にはいくら呼ばれても結構!』  うははははという男性の笑い声の後で、スパンと切れのいい音が響く。しいて言うなら、ハリセンで後頭部を叩いたような小気味いい音だ。 『さっさと本題に入りなさい!』  尾崎の身内だろうか。怒った女性の声が電話の向こうから若干聞こえる。 『いてててて……。小夜ちゃん、今、仕事帰りか? 話してもいいか?』 「えぇ。今、職場を出たところです。お手数をおかけしまして、申し訳ありません」 『それがわしの仕事だからな。久理子さんに何かあった場合、緊急連絡先として申告してもらってたんだよ。孫・愛澤小夜って』  尾崎と話しながら、小夜は校門の壁に寄りかかる。歩きながら話していい内容ではないし、歩きながら話せるほど器用ではない。
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