落下星  理想的な家族11ー凪

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「凪!朝っぱらからうるさい!」  仁王のような顔でドアを開けたこころは、部屋の中を見た途端、そのまま固まった。 「お母さん!」  叫んで、パジャマ姿のまま侵入してくる。  そして、 「なにこれ!可愛い!」  迷うことなく、双子の(そば)に駆け寄った。 「今日から家族になる」  母は前置き無しで、そう告げた。  こころは一瞬、母を見つめたが、「そう!」と大きく返事をすると、「何て名前なの?」と母に訊いた。 「今、凪がつけてくれた。大翔(ひろと)(あお)だ」  母が漢字まで説明すると、こころは「ああ」と頷いた。 「大翔も碧も空のイメージだね。自分と対にしたかったの?」 「え?」  凪は目を瞬かせた。咄嗟に思いついたその名は、もちろん嫌いな奴の名前などではなかったが、自分に合わせたつもりでもなかった。 「え?なに違うの?」  今度はこころの方が戸惑っている。 「こころ……嫌じゃないの?」 「え?」  凪がボソリと言うと、こころはよく聞こえなかったようで、首を傾げた。 「急に子どもが増えるなんて、嫌じゃない?」 「わたしは、別に……あっ」  こころは慌てたように、口を押えた。 「そうだよ、お母さん。急に子ども二人も引き取って来ちゃって、凪が混乱するでしょ。だからそういう無茶のこと、強引にするのやめてって言ってるじゃん。凪はまだ七歳なんだよ」  まくしたてるこころを見て、凪は驚いた。「そういうつもりじゃない」と言おうとして、自分の目から涙が落ちたのに気が付いて、また驚いた。  そうか、嫌なのは僕だったのか。  俯く凪を、こころはよしよしと抱きしめてくれた。 「ちょっとは母親らしくしなさいよ」  母に説教したりしている。 「だから、こんな頭でっかちの、子どもらしくない可愛げのない子になっちゃうのよ」  だんだん悪口になってきている。 「あのさ、名前どうかな。大翔と碧」  凪が口を挟むと、こころは勢いよく言った。 「すごく、いいと思う!あんた、天才!」 「じゃあ、決まりだねー」  母親が呑気に言う。 「あのね、お母さん!わたしの話、聞いてた?」 「うん、聞いてるよ。こころはいい女に育ったなって思ってる」 「茶化さないでよ!凪の話をしてるの!」 「凪は……大丈夫だよ」 「ね」と母に振られて、凪は頷かざるを得なかった。  確かに、大丈夫な気はする。こころがいてくれて、お母さんもこうしてたまに帰ってくる。  凪はこころの腕の中から抜け出すと、双子に近づいた。双子はまだ声を出していない。大きな目を驚いたように見開いているだけだ。  二人の頬を恐る恐る触ると、大翔と名付けられた男の子だけが、顔をくしゃりと歪め、泣き出したのであった。
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