落下星  理想的な家族11ー凪

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 凪を産んだ時、母は約半年の育休を取った後は、また家にはほとんど戻らない日々が始まった。  その後、凪を育ててくれたのは、呑気な父親と十歳のしっかり者の姉だった。昼間はもちろん保育園に預けられていたが、それ以外はこころが面倒を見てくれたといってもいい。  たまに帰ってくる女の人を、物心つく前の凪は身近な人だとは認識できずに、人見知りをして泣いていた。  ただ、その人が家に来ると、いつもは自分ばかり構ってくれるこころが、嬉しそうにその人の(そば)にばかり行こうとすることが嫌だった。  二つくらいの時に、こころが「お母さん」と呼び、父が「りょうちゃん」と呼ぶその人が、自分にとっての、保育園の他の子どもたちが呼んでいる「ママ」や「お母さん」と同じものだと気が付いた。  だからと言って、すぐに母親に愛着が湧いたわけではなかったが。  今思えば、凪にはこころがいたから、母親に対するような愛着感情は、こころに対して抱いていたのだろう。  凪が七歳にしてこんなことを考えるのは、凪が普通の子どもに比べて、知能が早熟で高いからだ。  その代わり、社会性と情緒面は育っているとは言い難かった。  それこそ保育園で他の子どもたちと過ごしていた頃から、凪は妙に冷めていた。言葉もあまりしゃべらなかったから、どちらかというと成長の遅れを心配されたほどだ。だが先生の言うことは理解しているようだし、複雑な指示も迷うことなく一回でこなすので、「変わった子」で済まされていた。  それが、物心がついてパソコンを触りだすと、あっという間にそのシステムを理解してしまった。一般的なプログラムなら、今では難なく作れる。  神童だなんだと、周りは持ち上げたが、家族はいたって何も変わらなかった。 「そんなことより、友だち作りなさいよ」  と、こころはいたって常識的な助言をしてくれた。  家族にすでに「特別」な人がいたから、凪などなんの珍しさもなかったのかもしれない。  凪にはそんな家族をまとめられるこころこそ、「すごい」と思う。  彼女がいなかったら、こんな家族、とうに崩壊している。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加