落下星  理想的な家族11ー凪

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「ああ」  母は少し首を傾げた。 「怒るかな?」  そう訊ねる母はちっとも恐れているようではなくて、凪は腹が立った。 「当然でしょ。そう思ったから、お母さんも僕のところに来たんじゃないの?」  思わず声を荒げると、母はシッと凪の口を塞いだ。その動きの速さに、凪は思わず口を閉じてしまった。  母はニヤリと笑って、凪を覗きこむ。 「そんなに大きな声を出したら、こころが起きちゃうじゃない」  母は塞いでいた手を外すと、「ハズレ」と軽い調子で言った。 「凪にこの子たちの名前を付けてもらおうと思って」 「は?」  何を言っているんだ、この人は。  凪は一瞬、母の言葉を自分が取り違えたのかと思った。  だが、母が言い違えることも、自分が聞き違えることも、ありえない。 「この子たちは……」 「名前が分からないのよ」 「……あのね」  凪は常識的に説明しようとしてやめた。  犬猫じゃあるまいし、名前が分からないからと言って、勝手につけていいものとは思えないが、きっと常識の通用する世界ではないところで出会ったのだろう。  そんな世界のことを、凪は知りたくもないと思った。  凪はため息をついて、立ち上がった。 「だからって、なんで僕が考えなきゃならないの?」  母が拾って来たのなら、母が付ければいい。  母は凪のベッドの上で片足をたて、頬杖をついて凪を見上げている。そんな姿まで、母は似合ってしまう。 「だって、凪の名前はこころが付けたんだよ。だから今回は凪が付けるのがいいのかなと思って」  その話はこころによく聞かされた。  当時、こころは十歳だったから、命名の大役に、かっこいい名前を付けようと、張り切ってあれこれ考えたらしいが、びっくりするほどのキラキラネームではなくて良かったと思う。  特に意味を考えたわけではなく、響きがかっこよかったからということらしいが、凪は結構気に入っていた。  穏やかな、無風状態の海。  何も起こっていない静かな海。  最高じゃないか。
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