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「凪!朝っぱらからうるさい!」
仁王のような顔でドアを開けたこころは、部屋の中を見た途端、そのまま固まった。
「お母さん!」
叫んで、パジャマ姿のまま侵入してくる。
そして、
「なにこれ!可愛い!」
迷うことなく、双子の側に駆け寄った。
「今日から家族になる」
母は前置き無しで、そう告げた。
こころは一瞬、母を見つめたが、「そう!」と大きく返事をすると、「何て名前なの?」と母に訊いた。
「今、凪がつけてくれた。大翔と碧だ」
母が漢字まで説明すると、こころは「ああ」と頷いた。
「大翔も碧も空のイメージだね。自分と対にしたかったの?」
「え?」
凪は目を瞬かせた。咄嗟に思いついたその名は、もちろん嫌いな奴の名前などではなかったが、自分に合わせたつもりでもなかった。
「え?なに違うの?」
今度はこころの方が戸惑っている。
「こころ……嫌じゃないの?」
「え?」
凪がボソリと言うと、こころはよく聞こえなかったようで、首を傾げた。
「急に子どもが増えるなんて、嫌じゃない?」
「わたしは、別に……あっ」
こころは慌てたように、口を押えた。
「そうだよ、お母さん。急に子ども二人も引き取って来ちゃって、凪が混乱するでしょ。だからそういう無茶のこと、強引にするのやめてって言ってるじゃん。凪はまだ七歳なんだよ」
まくしたてるこころを見て、凪は驚いた。「そういうつもりじゃない」と言おうとして、自分の目から涙が落ちたのに気が付いて、また驚いた。
そうか、嫌なのは僕だったのか。
俯く凪を、こころはよしよしと抱きしめてくれた。
「ちょっとは母親らしくしなさいよ」
母に説教したりしている。
「だから、こんな頭でっかちの、子どもらしくない可愛げのない子になっちゃうのよ」
だんだん悪口になってきている。
「あのさ、名前どうかな。大翔と碧」
凪が口を挟むと、こころは勢いよく言った。
「すごく、いいと思う!あんた、天才!」
「じゃあ、決まりだねー」
母親が呑気に言う。
「あのね、お母さん!わたしの話、聞いてた?」
「うん、聞いてるよ。こころはいい女に育ったなって思ってる」
「茶化さないでよ!凪の話をしてるの!」
「凪は……大丈夫だよ」
「ね」と母に振られて、凪は頷かざるを得なかった。
確かに、大丈夫な気はする。こころがいてくれて、お母さんもこうしてたまに帰ってくる。
凪はこころの腕の中から抜け出すと、双子に近づいた。双子はまだ声を出していない。大きな目を驚いたように見開いているだけだ。
二人の頬を恐る恐る触ると、大翔と名付けられた男の子だけが、顔をくしゃりと歪め、泣き出したのであった。
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