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隕石のように、落ちてきたものは仕方がない。不可抗力と言うやつだ。
昔から我が家においての母親の所業は、そういった天災のようなものに近かった。
久しぶりに現れた母親が、我が家に落としていったのは、見たことのない双子だった。
日曜日の朝、寝起きでぼうっとしている凪の部屋に突然現れた母親は、抱きかかえていた二人の子どもを無造作に凪のベッドに降ろした。
呆気に取られている凪をニヤニヤ見ながら、「可愛いでしょ」と胸を張った。
三ヶ月ぶりに帰ってきて、この態度は一体なんだ。一年生になった凪のランドセル姿すら、一回も見ていないと言うのに。
凪は頭にきて、母親を睨んだ。
「おかえり、お母さん。この子たちは何?お母さんの隠し子?」
小学一年生とは思えない息子の言葉に、しかし母は可笑しそうに笑った。
「わたしの子だと思うかい?」
この人にはどんな嫌味も挑発も通じない。
凪は仕方なく、首を横に振った。
「違うと思う」
「凪はやっぱり賢いね」
母は凪の頭をポンと叩くと凪の横に座った。二人の子どもはきょとんとして、母と凪を見ている。それにしても、赤ん坊といってもいいくらい幼いのに、この子どもたちはちっとも泣かない。
「わたしはこの子たちの母親になろうと思う」
「どう思う?」と訊かれて、凪は驚いたり怒ったりするより前に、ああ、と天を仰いだ。
「どう思う?って、もう決めちゃったんでしょ」
そもそも七歳の息子に最初に聞くなんて、どうかしている。家の中が騒がしくないのは、家族の誰もまだこの子どもたちの存在を知らないのだろう。もしお父さんやこころが知ったら大騒ぎだ。
「まぁ、そうなんだけど」
珍しく母が言葉を濁したので、凪はおやっと思った。
凪の母親はほとんど家にいない。世界中を飛び回って仕事をしているらしいのだが、おかげで凪は、母親が子育てをする姿を想像できなかった。
「母親になる」と決意を固めたところで、実際にこの子たちを育てるのは、父やこころになるだろう。
「こころは怒ると思うよ」
こころは凪より十歳上の姉だ。この破天荒な母親と能天気な父親が営む家庭が、なんとかまともな状態でいられるのは、彼女のおかげと言っていい。
そして、凪と違って、こころは母親との真っ当な親子関係を、まだあきらめていない。
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