“We Are The People”

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「おはよう。何万回寝てもやっぱり気持ちいいなあ、このベッド。今時こんなので寝ている贅沢な人間なんて私たちだけだろうね」  遠い昔の王族調度品の古い木枠を軋ませながら妹 ポボス・メリディアン が言う。 「使い捨てのレプリカントが人間って呼べるのかよ」  筋骨を鳴らし代替身体(ニューボディ)を慣らす兄 エレオス・メリディアン が手動バリカンで頭の両脇を刈り上げながら応える。 「今日も何処かで死ぬのかな?」 「さあな。今回行き先は確か1793年のフランスだった気がするよ。後で中毒者(クライアント)に確認しとくよ」  エレオスは、さっきの自己存在否定とは裏腹な “We Are The People”(我らは人民)と文字が書かれた大きなバッジを胸に付けたM65フィールドジャケットを羽織った。このジャケットは何百着目か憶えていないレプリカだが、バッジとワッペンはトラヴィス・ビックルという役名の俳優が映画で着ていた衣装と同じ時代の本物だ。劇中使用のオリジナルも記念館からサルベージして持っているが血塗れで着れやしないので飾ってある。バッジとワッペンは耐光耐擦マテリアルでコートしているので新品に近いまま愛用し続けている。 「また同じ格好? それ昔の諺だと馬鹿の一つ覚えって言うんだよ」  ポボスは囃す。 「まあ俺は大事な客を運ぶ最後のタクシードライバーだからな。それより早く準備しろよ」  エレオスは急かす。
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