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「女優は毎回TPOに合わせた運命の女の個性に添ったファッション考えなきゃで大変なんだよ。コンセントレーションの時間は大切なんだから」
そう言いながら彼女は慌てずコーヒーを淹れトーストを焼く。
「味蕾なんて無いんだから美味くもなんともねえだろうが。時間の無駄使いすんなよ」
と兄は呆れる。
「未来なんて無い? そりゃそうだけどさ......少しでも人間らしくありたいからさ」
続き妹は目玉焼きの為に卵を割る。それは黒雲に覆われたこの世界で唯一の太陽のように見える。
このライブラリー/ラボラトリーを併設した「ビブリオテカ」は大昔に廃棄された国際宇宙ステーションの残骸を利用した施設だ。大気圏より上にあり膨張する太陽光を利用して起動しているが、蔵書資料の紫外線劣化を防ぐ為に窓は全て潰されている。博物館という名ばかりの倉庫は無菌状態なのに黴臭いのは蓄積された歴史の層が染み付いているからだろう。今は起動していない地表から高く伸びた軌道エレベーターが天を貫いていることから、かつて「バベルの塔」と呼ばれていたが、ビブリオテカ部分は「バベルの図書館」には程遠い虫喰いだらけの痴愚な知識庫だった。
彼らは『子午線双子』と呼ばれるこの場所のキュレーターであり、哀憐提供業として従事する伝説の裏で暗躍する首狩り人だった。
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