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背後には今夜の為に強制的に変容させた胸という無用の膨らみを強調するためのコルセットを着けた侍女を演じる複数人の予備ポボスが堵列していた。
「ご機嫌いかがですが? ムッシュ、アンド、マダム」
最後のムの発音を鼻に抜けさせながら演じているのは、光沢あるシルク素材のスペンサージャケットとクロスタイ姿のギャルソン役のエレオスだった。彼は無機質な笑顔を浮かべながらテーブルの上の生首を寝かせ、大きなケルティック・ハープのような調理器具をその頭部に宛てがう。弦に相当する並列した光が生首の前頭部に沈んでゆく。ギャルソンがそっと手を触れると、古代世紀に活躍した美術家ダミアン・ハーストの作品のような輪切りの頭部がスライドした。
エレオスはレコードコレクターが物色する動作のように両手を交互に動かしてスライスされた頭部の中から今夜の宴に適した一枚を選び出した。
ギャルソンヌ役のポボスが車輪の無い宙に浮いたワゴンを押して現れた。その台の上には開きかけの朝顔のような金色の真鍮のラッパ傘を持った大昔に蓄音機と呼ばれていた物に形を似せた機械が載っていた。
エレオスはその蓄音機もどきのターンテーブル形状の上に輪切りの頭部の一枚を乗せ、アームについた針を静かに下した。
バチバチとしたノイズが傘の中から流れ出した。
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