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「和磨」
病院内のレストランで私は和磨に声をかけた。
和磨はサワラと春キャベツのタルタル定食を、私は鮭とほうれん草のチーズフライをそれぞれ三分の一程度食べた所だ。
「本当に良いの?
ーーー塔野さんにーーーついていってーーー」
和磨はタルタルソースのかかったサワラをがぶりとかじって、頷いた。
「うん。
ーーー塔野さんについていく……!
………僕…塔野さんの事ね……最初は全然知らなかったけど…
直接お話ししたり……会えなくなってからも電話で話したりしてね……すごく優しいなって思ったの。
ーーーーそれにね……
…塔野さん僕とママがついていかなかったら……ほんとはすごくさみしいんだろうなって思うの」
和磨は笑って言い、なんだか塔野さんより和磨の方が大人な気がしてしまう。
子供はいつの間にか小さい大人になる。
「それに日本にいても、どのみちお引越ししなきゃいけないんでしょ?
それならやっぱり僕はーーー塔野さんといたい」
きっぱりと言った和磨に私は「そっか」と告げて笑顔を作った。
少なくとも自分と塔野さんのした事で和磨を振り回してしまう事に、罪悪感はある。
「あっ!!!!!」
和磨が突然大きな声を上げて、私は驚いて鮭フライを咥えたまま和磨の視線の方に顔を向けた。
倉掛さんだーーーーー
私は慌てて鮭フライを噛み切り、口に入り切らなかった部分をお皿に戻す。
「随分と大きなお口でーーー
ーーー和磨くん、久しぶり」
最初の大きなお口でーーーは、絶対私に言っている。
こういうデリカシーの無い事をサラッと言えちゃうところも、倉掛さんの魅力の一つな気がする。
「こんにちは!
…倉掛さん、遊園地で会ったいらいだね」
和磨の言葉に、私は自分が鏡花さんと直哉に連れ去られたあの日ーーー和磨を心配した倉掛さんと塔野さんが、遊園地に行ってくれた事を思い出した。
「だね。
……和磨くん、フランスいっちゃうらしいじゃん、パパから聞いた」
パパ。
改めて聞くと、新鮮というか違和感のある響き。
現に私も和磨も、塔野さんを塔野さんと呼んでいる。
「うん!
塔野さん寂しそうだから、一緒に行く事にしたの」
和磨の答えに、倉掛さんはぷっと吹き出した。
「和磨君の方が…大人だねぇ…」
倉掛さんは困った様に笑い、目を細くした。
目を細くした時の倉掛さんは、少しだけ塔野さんに似ているとこの瞬間思う。
「倉掛さんも病院ですか?」
私は和磨と倉掛さんの会話が途切れたタイミングで尋ねた。
「うん。健康診断と人間ドック」
「健康診断……」
私は呟いてしまう。
もう少しで新年度という、こんな半端な時期に健康診断をやる人もいるのだななんて、考える。
「そうそう。
ーーーー直ぐ死ぬ様な人とはーーー付き合えないってさーーーー
ブライダルチェックならぬ、デーティングチェック」
私はその言葉に、ハッとする。
それはーーーーー
「じゃ…!…俺検査だから!
あんまココいると、食べたくなるし…
じゃあね、和磨くん。
遠くに行っても、パパの事見捨てないでね」
倉掛さんはそう言って手を左右に振り、レストランから出て行く。
和磨は言葉の意味が分かってないながらも、なんとなく手を振り返した。
「でーてぃんぐちぇっく…ってなに?」
「健康診断のことよ」
私は微笑んだ。
和磨は「ふーん」と言って、まだ不思議そうな顔をしている。
倉掛さんのデーティングチェックは、鏡花さんが前を向き始めた、証かもしれないなと、嬉しくなる。
私もしてもらった方がいいのかも知れないーーーいまだにタバコをやめれないし、夜更かしも大好きなーーー
あの人のデーティングチェックをーーーー
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