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「ーーー本当にごめんなさいーーー…
……私も…あの人が自殺するなんてーーー
……思わなくてーーーー」
思わなかった?
あの人が家庭の事情やーーー私との将来の事まで考えてーーー大好きな役者として生きていく事をーーーー自分の家族からも私の家族からも認めてもらおうってーーーー
自分のお母さんを救いたいってーーー
お父さんから認めてもらって医者にはならずに、役者として生きていたいってーーーー
私と幸せになりたいってーーー
ーーーこのオーディションにどれくらいの気持ちで臨んでいたかわからなかったのーーー?
「ーーー…許して……くれる……?
……最初に私に手を出したのは塔野一朔なのよーーー!
…私…誘いはしたけどまさか本当にそうなるとは思わなくてーーーー…抵抗出来なかっただけでーーー」
私は寺澤嘉音の胸をナイフで突き刺した。
さっき電車の中で、この辺りで女性を狙った通り魔が連続して起きていると報道されていた。
殺害方法はナイフで胸を突き刺すやり方で、共通しているらしい。
「ーーーー…きょう……か…ちゃ………」
寺澤嘉音は胸を押さえながら膝をつき、前のめりに倒れ込んだ。
血が吹き出しているのか、彼女の体とアスファルトの間に血溜まりが出来ていく。
死んでよ。
淫乱ババア。
なんでアンタが生きていてあの人が死ぬのよ。
アンタがこんな事しなければーーーー
あの人は今頃私の側に居てくれたんだから。
私はナイフを少し離れた場所で捨てた。
ナイフを彼女が倒れるギリギリまで抜かなかった事が幸いしてか、返り血を浴びなかった私はそのまま家に帰り着ていたものを洗いお風呂に入った。
人を殺したというのに怖くもなんともなく、むしろ生かして、もっと苦しめてやればよかったとそう思った。
ーーーーそうだ。
塔野一朔は殺さないで…一生苦しめてやろうーーー。
私と同じようにーーーあの男の大切な女を死なせてやるというのはどうだろうーーーーその為にはまずーーー私があの男に近づかなければーーーーー
そんな事ばかり考えて、私は湯船のお湯を見つめていた。
いるんだろうか。
あんなクズ野郎にも、心から好きな人が。
ーーーいなければ…作らせればいい。
どうしようもなくーーー好きで好きでーーー
ーーー死ぬ程大切な女をーーー
その日から私は塔野に復讐する事ーーーそれだけを胸に生きてきた。
そして今ーーーやっとそれが叶おうとしている。
10年かかって、やっとーーー塔野が命よりも大事であろう芹沢琴葉という女を見つけーーーこの女を今まさに殺そうとしているーーー
恨むがいい。
自分の前で善人の皮を被った塔野を。
私をよくも騙してくれたーーーそんな最低な男だと思わなかったってーーーー
そんな事を思いながら、私は真実を全て話し終え、改めて芹沢琴葉に目をやった。
私は一瞬、体の神経が予想外に強張るのを感じた。
それは芹沢琴葉の瞳が、涙で濡れていたからだった。
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