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「ーーー塔野と付き合ったばかりの頃ーーー…アイツ本当につまらない男だった。
友達もいないし、家族とも疎遠、大切な女がいるわけでも、親友がいるわけでもないーーー
…私が復讐の方法に困るくらいに、自分の事ばかり考えてるつまんない男だった」
この薬を全部入れられたらーーー私はきっと死ぬ。
そこで泡を吹いて死んでいる直哉のように。
そう思うと自然と脈と呼吸が早くなる。
こめかみから伝う汗のせいで、前髪の内側がおでこに張り付いていた。
「そんな男が貴女と出逢ってーーーこんなに変わるんだってーーー面白いったらなかったわ……
世間の目なんて考えもせずにーーー私の目を盗んでコソコソ貴女に会ってプレゼントなんて買ったりしてーーーー
貴女を誘拐したって言ったらあの男ーーーすごい狼狽えて…いつもならあんな声絶対出さないのにーーー私、笑っちゃったわ」
鏡花さんは笑みを含めた声で言い、小さく笑った。
鏡花さんの大切な人をを死に至らしめておいてーーーどんな顔で私に会うんだろうとーーー鏡花さんは塔野さんを何度軽蔑しただろう。
「ねぇ」
言われて、私は鏡花さんと目線を合わせた。
「塔野のどこが好きなわけーー?」
私は目を僅かに泳がせた。
鏡花さんはそれを見逃さない。
「ーー相当好いてるみたいだったじゃない。
隠し撮りしたーーーあのAVまがいの映像を見る限りでは」
鏡花さんは怒っている。
怒っていながら、喜んでいる。
私が塔野さんに愛され、塔野さんを愛した事。
「ーーーーわかりません」
自分の声は弱々しく震えている。
それでも、息を吸い込んでから、続けた。
「塔野さんに好きだと言われた時ーーー
……不倫がいけないものだとは…当たり前に分かっていました……
でもーーーどうしてもーーー
ーーー塔野さんが好きでしたーー…
理由なんて無くてーーー塔野さんより優しい人も、カッコいい人も沢山いるのにーーー
私には塔野さんしかーーー考えられなかったんですーーーー
だからーーーどこが好きと言われたらーーー
なんで今も嫌いになれないんだと言われたらーーーわかりませんーーーー」
理由なんてないーーー
実際に鏡花さんの話を聞いた今もーーー塔野さんを嫌いになれていないーーー
好きでもない女性をーーーあっさり抱いてオーディションの不正をさせてーーー
最低なーーー許されない事をした塔野さんに衝撃を受けつつも、嫌いにはなれない。
私はイカれてるのかもしれない。
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