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「ーーーーなのにッーーーなんでーーー
ーーーなんで死んじゃうのよーーーッ
俳優になんかなれなくてもーーー母親が自由になれなくてもーーー父親の言う通りになんてしなくてもーーーーッ
ーーーー生きてさえいてくれたらそれでよかったのにーーーー!!!」
私の頬に鏡花さんの涙が落ちたと思った瞬間、鏡花さんは大きな声をあげて、和磨が大泣きをするかのようにわんわんと泣き出した。
涙は止まる事を知らず流れ続け、鏡花さんは拭っても拭っても、止まらない涙をこぼしながら私を押さえつけた。
「ーーーーあの時私が悠貴が死のうとしてることに気付けてたらーーー
…あの電話の時に……会いに行っていたらーーーー
ずっと一緒にいたんだからーーーあの人が死ぬほど悩んで追い詰められていた事にーーーー
ーーーー前から気づいてあげられたらよかったのにーーーーー…!
あの人ーーーー…指輪も私に渡さずにーーーー机の奥に入れたままーーーーーー
ーーーーー死んじゃうなんてーーーーー!!!」
あの人。
それは私が記憶の中の塔野さんを思い出す時と同じ呼び方だった。
私はなんとか身体を起こし、泣き喚く鏡花さんを抱きしめた。
そうだよね。
忘れて幸せになれよなんて、あの人の身勝手だ。
理由もなく、ただあの人を愛した私達には、そう簡単にあの人を忘れて、別の誰かを愛して生きていく事は容易で無い。
「ごめんなさいーーーーー…
無理ですよねーーーそんな簡単にーーー…
自分の全部を許してーーー傾けて愛した人をーーー忘れられないーーーですよねーーー…」
鏡花さんは私が鏡花さんを抱きしめてからも、ずっと声をあげて泣き続けていた。
鏡花さんは塔野さんを恨んでいてーーー許せなかったーーーー
でもそれと同じくらいーーー責任感の強い鏡花さんは自分の事も責めて、追い詰めてしまっていたのかもしれないーーーー。
自分が愛する人を守れなかった事。
愛する人が死ぬ理由に気づけなかった事。
自分が気づかなかったせいで愛する人が死んだ事。
その愛する人の家族まで不幸にした事。
だからそうさせるきっかけを作った塔野さんを許せなくて恨んだのはーーー当然だーーー。
私を使って復讐しようと考えるのだってーーー痛いほどーーー分かるーーー。
お前も同じように苦しめって、塔野さんに思う事もーーー痛いほどにーーーーー。
「鏡花さんーーーー…
塔野さんのした事ーーー…本当にごめんなさいーーーー…
謝ってもーーーどうにもならないしーーーー
ーー私に言われても響かないかもしれないけどーーー
きっと私が鏡花さんと同じ状況に置かれたらーーー私も同じようにしたかもしれないーーー
鏡花さんも私と一緒でーーーー
ーーー…どこが好きかもーーーなんで好きかも分からないくらいーーー
ーーー悠貴さんの事がーーーーー
ーーー大好きだったんですよねーーーー…」
私はもう一度鏡花さんをぎゅうと抱きしめた。
気付けば、自分の目にも涙が溜まっている。
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