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「ーーーーサインだってーーーー! ーーー…今思えば……悠貴が追い詰められて……悩んでるような……そういうサインもあったのにーーーー… 私全然ーーーー…気づかなくてーーー…」 鏡花さんは声をしゃくり上げながら話し続ける。 私は自分も涙を堪えながら、彼女を抱きしめ、頭を撫でた。 悠貴さんはきっとーーー鏡花さんに気づいて欲しくてそのサインを送っていたわけじゃない。 プレッシャーや自分が思い描いていた夢へのギャップや、塔野さんに不正を働かれ、オーディションの主役を下された時の絶望感ーーーー。 それは徐々に悠貴さんの心身を蝕みーーーその結果それがーーー 鏡花さんの言うサインとして溢れてしまったのだろう。 「鏡花さん」 私は彼女の頭を撫でたまま名前を呼んだ。 あれほどの事をされたのに、私は不思議ともう、彼女が怖くはなかった。 「ーーーー私には…悠貴さんの当時の心境は分かりませんーーーー でも悠貴さんがーーー ーーーー鏡花さんへ指輪を渡さずに机の中に入れたまま亡くなったのはーーーー 鏡花さんと幸せになりたくてーーー鏡花さんを幸せにしたくてーーー色々な葛藤や不条理から心身を蝕まれながらーーーー それでも生きようとーーーー鏡花さんと生きようとーーーー 本当にギリギリまで自分の心と理性とーーーー葛藤して戦った証だと思いますーーーー」 鏡花さんは何も言わない。 何も言わずに肩を震わせ泣き続けている。 「ーーーー悠貴さんも死ぬのを決めた時ーーー きっと鏡花さんに…自分がこの世からいなくなっても幸せになってほしいとーーーー身勝手ながら思ったはずですーーーー。 『幸福な王子』のツバメがーーー王子の元を離れて南の国で暮らすのを…悠貴さんが想い描いたようにーーーー でもーーー指輪は捨てられなかったーーー。 鏡花さんを愛していたからーーーー 指輪を渡せなくてもーーー渡さない方が良いと思っていてもーーーー ーーーー捨てる事はーーー出来なかったんだと思いますーーーーー」 私はそう言って目を閉じた。 自分の目からも涙が一粒こぼれ落ちる。 悠貴さん。 ごめんなさい。 塔野さんのせいで 貴方を死なせて 鏡花さんをここまで追い詰めて、苦しめた その塔野さんを愛している私が 亡くなった貴方の気持ちをこうやって憶測で鏡花さんに話す事 本当に、本当にごめんなさい。 でも私は 今が辛くても 鏡花さんには生きてもらいたくて 貴方の事が忘れられなくても いつかきっと忘れられない事すら受け入れて 貴方が考えた『幸福な王子』の結末のように 生きていってほしいと思うのです。
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