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私が背の高い鏡花さんの体を抱きしめようとした時、突如扉が開いた。 扉が開いた事にすら気づかずに泣き続ける鏡花さんとは対照的に、私は顔を扉の方へと向ける。 「琴葉ーーーー!!!」 その声に私は思わず鏡花さんの身体ではなく、耳を両手で覆ってしまう。 私の最も求めている声は、多分最も鏡花さんを傷つける。 私はそうしてから、塔野さんの横に立つ男性に気づく。 その後ろに隠れる様に立つ、倉掛さんにも。 「警察だーーーー…芹沢琴葉とーーーー ーーーー安座間鏡花だなーーーー」 素っ裸の私を見ても何も動じる事はなく、警察は私と鏡花さんの元に近づいた。 鏡花さんも警察の存在に気づき、真っ赤な目を扉の方へと向けた。 その赤い目で、鏡花さんは塔野さんを見つけるとすぐに目を逸らした。 「ーーーー話は聞いてるーーーー。 ーーー安座間鏡花……21時15分7秒ーーー 芹沢琴葉誘拐と暴行容疑で逮捕するーーーー」 鏡花さんの右手に、容赦なく掛けられる手錠。 鏡花さんは手錠をぼんやりと見つめたまま私から引き剥がされ、力無く立ち尽くす。 私はいつの間にか自分の横にいた女性警察官に、毛布をかけられ体を包まれる。 「待ってくださいーーーー」 私の唇から、自然と言葉が飛び出した。 これがバレればーーー私も何かの罪になるだろうかーーー でもーーーー被害者は今、私だーーー 「ーーー…鏡花さんは何もしていませんーーー 私を暴行したのも…誘拐したのもーーー ーーー全部このーーーー 佐伯直哉がやった事ですーーーー 佐伯は……私をレイプする際に自ら薬物を使って………私を……レイプしてる最中に……亡くなりましたーーーー…」 声が、自然と震える。 これが私にできるーーー唯一のーーーー ーーー最後の償いな気がした。 鏡花さんは大きな瞳を僅かに見開いて私を見て、その後また黙って立ち尽くしていた。 女性警察官が直哉の死体を確認しに行く。 なんの動揺も見せず直哉の死体を見て「今のところ供述通りの死因で間違いなさそうです」と鏡花さんの横に立つ男性警察官に告げた。 男性警察官は怪訝そうに首を捻る。 「ーーーー詳しい話は署でじっくり聞かせてもらうーーーー 野上(のがみ)ーーーー。 お前は彼女の病院に付き添えーーーー俺は安座間とーーー署に戻るーーーー」 鏡花さんの瞳がまたしても少しだけ動いた。 女性警察官も見ると、僅かながら鏡花さんの目を見て少しだけ頭を下げていた。 鏡花さんは大人しく男性警察官と共にパトカーに乗り、私は女性警察官と塔野さんと共に別のパトカーへと乗り込んだ。 倉掛さんも同乗する様に誘われていたが、倉掛さんはそれを断った。 「仕事が残ってるんで。ーーー重大な、仕事」 そう言って倉掛さんは『ニヒルな笑み』ーーーという表現がぴったりな笑みを野上さんへ向けた。 「琴葉ちゃん」 パトカーに乗り込んだ瞬間、倉掛さんに名前を呼ばれた。 さっきからずっと黙ったままの塔野さんとは対照的に陽気な声。 「御守りの効果思い知ったっしょ?」 「御守りーーーーー?」 訳がわからず私は倉掛さんを見つめる。 倉掛さんは何処からか、黒い定期入れのようなカードケースを取り出した。 その瞬間ピンと来た。 私があの日ーーー倉掛さんと初めて会った日にもらった名刺が入れられていたーーーあのカードケース。 「GPS入りなんだ。 刑事さん、俺がストーカーじゃなくて、よかったですね」 倉掛さんは野上さんを揶揄う様に言って、いつものように微笑んだ。 「ーーーバカーーーー犯罪よーーーー ……厳密に言えばーーーねーーーー」 呆れた様に告げた野上さんに「サーセン」と軽く謝り、倉掛さんはカードケースをポケットにしまった。 パトカーは私と塔野さんを乗せたまま病院へと到着し、私は自分が予想していたよりも多くの検査を受ける事になり、塔野さんと野上さんと離れ離れになった。 塔野さんは車の中から出て病院に到着しても、一言も言葉を発さなかった。
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