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「ーーーー了解ーーー ーーー決まったらーーー教えてーーー」 塔野さんはまたしても困った様に笑った。 「塔野さん」 「うん?」 「ーーーフランスで仕事欲しくてーーー適当な女の人抱いたりしないでね」 私の言葉に、塔野さんは苦い顔をした。 女監督を抱いて、オーディションの不正を働いた塔野さんへのブラックジョーク。 「ーーーしないよ… ーーー…頼みたいな事言うなよ……」 ごめんごめんと、私は軽く謝る。 昔なら、絶対塔野さんにこんなこと言えなかった。 「ーーーーまさか倉掛さんがーーー鏡花さんの事好きなんて思わなかったなーーー」 私が言うと、塔野さんも頷いた。 塔野さんの左手の薬指は記者会見の時から相変わらず空っぽで、先日正式に鏡花さんと離婚をした。 倉掛さんは鏡花さんに、これからアプローチをするらしい。 「好きなんですよね、鏡花さんの事。 ーーーー色々調べてるうちに、好きになっちゃいました」 倉掛さんが鏡花さん本人に、はっきりとそう伝えたと聞いた時は、驚いた。 「ーーー意外に合うかもな」 「ね、そうかもね」 私はベットの上で頷いて微笑んだ。 もし倉掛さんの気持ちを鏡花さんが受け入れる事ができたならーーーー ーー今度はーーーちゃんとになってほしい。 「ーーーーなんで助けたの?」 あの後、警察から解放された鏡花さんが病院に来て、入院している私にそう尋ねた。 私は少しだけ視線を上に向けた。 「ーーーーなんででしょう…」 私の言葉に鏡花さんは怪訝な顔をした。 私と鏡花さんはあの日から秘密を共有する事になった。 罪の全てを直哉に負わせてーーー鏡花さんのした事を無かった事にする秘密ーーーー。 「ーーーー私も塔野さんに同じ様に死なれたらーーーきっと鏡花さんと同じ事をするだろうと思ったーーーーー 同じ事とはいかなくてもーーー同じ気持ちになるだろうなと思ったーーーーー 鏡花さんはーーーー悠貴さんをーーー ……愛してるが故に、復讐に身を傾けて行ってしまったと思ったからーーーー ーーー死別であれ、別離であれ、大切な人を不本意に奪われる事は辛いからーーー 私は鏡花さんの事をーーー罪に問えない…問いたくないなと思ったんですーーーー」 まとまりのない言葉。 でも、本心だった。 あの人。 その単語を言われた時に気付かされた。 鏡花さんも私も、ただ転がるように恋に落ち、を愛してしまったんだと。 「ーーーーーそうーーーー」 鏡花さんはそれだけ言って表情を変えない。 私は「うん」と頷いた。 私もきっと塔野さんが自ら命を絶ったらーーーーきっと自分を責める。 現に、会えないと分かっていてもーーーテレビやレンズ越しのーーーガラス越しの塔野さんしか見れなくて、触れられないと分かっていた時もーーーー 私は塔野さんを避けながらも心のどこかで 塔野さんが生きてさえいれば良かった。 手の届く位置に来たら欲しくなってーーーもう一度追いかけて、求めてしまったけどーーーー 会えないと思っていた時はずっとーーーー ふと心に空白ができる度にそう思っていた。 ふと、和磨が寝た後の暗い部屋で、仕事の休憩の合間に、朝に1人で立つキッチンで。 いつもそう、思っていた気がする。
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