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「忘れられると思うーーーー?」 塔野さんに聞かれ、私は塔野さんに聞き返す。 「忘れられるーーーー?」 「ーーーー浦部悠貴の事ーーー 鏡花が忘れてーーー頼と一緒になれると思うーーー?」 そう尋ねる塔野さんを、私は意外に純粋だなとおかしく思った。 だってーーーーーー 「忘れなくてもいいんじゃない?」 塔野さんは驚いた様に目を僅かに大きくして、黙って私を見つめた。 忘れられなくても、いい。 いいに、決まってる。 「忘れなくてもいいんだよーーー 自分の全部で愛した人なんだからーーー忘れられなくて当然だしーーー 簡単に忘れられるくらいなら、最初から鏡花さんはきっとーーー復讐なんて考えないと思うーーーーー 忘れられない中でも……… その人を思い出してしまいながらもーーー 毎日を少しずつ少しずつ積み上げてーーーー ーーー忘れられない人との楽しかった事も苦しかった事も全部引き連れて歩いて行ってーーーー ーーーその人との過去を全部引き連れて歩いてきた自分がーーー今度は『誰か』を好きになったり、一緒にいたいと思った時にーーー …私はその『誰か』と一緒になればいいかなって思うよ」 そう。 今の自分を作ったのは過去の経験だから。 未来は変えられる。 とか、人はよく言うけれど。 私達は過去の経験から作られている。 過去の経験によって自信がつく人、忍耐強くなる人、捻くれてしまう人、優しくなれる人ーーーー… だから過去を引き連れて歩いて当然だ。 当然というかーーー人間は本当は、みんな過去を引き連れて歩いているのでは無いかと私は思う。 人間過去を無かった事にして生き直す事は、記憶喪失にでもならない限り出来ない。 過去を引き連れた上で、生き直す事はできるけれど。 「ーーーそれに倉掛さんには心を許させちゃう力があるよーーーたぶんーーーー」 私は倉掛さんと最初に会った時を思い出しながら言った。 初対面なのに、心を許してしまいそうにさせる不思議な力を、倉掛さんは持っていた。 あの日ーーー塔野さんの父親が私の元を訪ねてきてくれた時ーーー倉掛さんは私を庇って家に入れてくれた。 あの日感じたーーー倉掛さんの不思議な魅力。 きっと鏡花さんもーーー同じ様に感じるんじゃないかと私は思う。 私達は何処か、似ているから。 私と似てそうで似てないーーーー 似てなそうで似ているーーーー 鏡花さんーーーーー 私は鏡花さんも倉掛さんの不思議な魅力をーーー感じてくれたら良いなと願ってる。
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